PROFILE
横地 早和子YOKOCHI Sawako
詳細をみる
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程後期修了。
東京大学大学院情報学環・学際情報学府特任研究員、同大学院教育学研究科特任助教を経て、現職。
専門:
認知心理学
主な担当科目:
心理学研究法、心理学実験、知覚・認知心理学など
-
心理学に興味をもったきっかけ
お正月の集まりに、顔を出したくない子ども。
叔父が差し出してくれた一冊。
一番古い記憶は、小学生の頃にお正月の親戚の集まりに行きたくなくて部屋に閉じこもったこと。高学年だったので自意識が膨らんで、面倒くさいと思うようになっていたんです。すると、叔父が「こういう本を読むといいと思う」と、一冊の本を差し出してくれた。タイトルは忘れてしまったのですが、心理学関連の本だった。叔父は自治体で子どもの発達支援の仕事をしていたこともあって、気持ちを察してくれたんだと思います。当時の私は子どもらしい子どもではなく、「友達とは何か」と黙々と考えているようなタイプでした。いま思えば、心理学に興味を持つ入口だったように思います。
中学時代の塾の先生の存在も一つのきっかけです。心理学を学ぶ現役の大学院生だったのですが、数学や英語を教えるだけでなく「こういう本も面白いよ」といろんな本を薦めてくれました。特に印象に残ったのが『問題解決の心理学』(安西祐一郎著/中公新書)という本。思春期は、友人関係や親子関係がギクシャクしちゃうとか、反抗期とか、色々なことがありますよね。人は困難に出会った時に解決方法を模索するわけですが、問題解決の心理学では、人間の様々な思考プロセスを紹介しています。たとえば、困難を「問題空間」として捉え、その空間の中でどうアプローチしたら問題が解けるかをしらみつぶし(アルゴリズム)に取り組むだけではなく、ヒューリスティックというこれまでの経験を柔軟に適用しながら効率よく解決策を導こうとするなど、人間の思考の柔軟さが描かれていた。こんな面白い世界があるんだ!と目から鱗でした。この本では科学の発見にはイメージが役立っているというエピソードも出てきます。たとえばアインシュタインは、「光と同じ速さで一緒に動いたらどうなるのか」をイメージ(空想)することで、相対性理論の着想を深めていったと言われています。人間が持っているイメージの力というものも、実際に問題解決の一つのツールになっているんですね。悩み事を解決したり新たな発見をしたり。このような創造的なプロセスも心理学の学問領域の一つだと知り、ますます心理学に興味を持つようになりました。 -
研究内容について
芸術家の創作活動の心理学を研究しています。

認知心理学の立場から、芸術創造における創作プロセスを研究しています。観察法やインタビューを中心としたフィールドワークを通して、芸術家がどのように創作テーマを形成し、長い時間をかけて熟達していくのかを分析しています。様々なテーマがあるなかで、なぜ創作活動なのか。理由の一つに、私自身が映画や音楽が好きで思春期に影響を受けたということがあります。友達と話しても晴れない悩みでも、映画や本などの作品に救われることがあった。映画館にもよく通っていましたね。学校とはまったく違う場所にいるということ自体が心地よかった。美術館もそうです。そこで出会うものは自分にとっては異質なものだったりする。中には理解できないものもある。でも、作品も私もそれぞれが存在している。人と違っても存在していていいんだ、と思えた。作品と向き合う時間、自分と向き合う時間、その空間を占有できること。いろんなことが心地良く、思春期の自分を支えてくれた気がします。
ちなみに芸術家の創作活動についての心理学の研究は、昔はあまり活発ではなかったんです。なぜなら「芸術家とは特殊な才能を持っているから素晴らしい作品を作る」という考え方が根強かったから。芸術家は“個別の事例”だと思われていて、その個別事例から、一般的な創造性の理論をつくるのが難しいと思われていたのです。しかし、複数の事例を詳しく見ていく中で、共通する要素を導き出し、創造性の研究を前進させることが出来ると考えています。人間は創造的な生き物だと言われますが、創造的であり続けるためには様々な工夫と蓄積が必要です。芸術家もおなじで、長期間にわたって作品制作の経験を積み上げながら知識や技法、コンセプトを洗練させていくんですね。新しい作品を作る時に、前の作品の制作で感じたり思いついたりしたことを利用して、次々と作品を展開させていきます。そうして創作活動を続けていくと、積み重ねたものの“結晶”みたいなテーマが出てくるんです。その人の作品にある一貫した核のようなものです。たとえば、ピカソ。青の時代やバラ色の時代からキュビズム、晩年に至るまでどんどん作風が変わったことで知られています。女性、闘牛、戦争などの多様なモチーフを描きましたが、その奥には一貫して「人間とは何か」という問いが流れていると言われています。そういったテーマは始めからあるのではなく、徐々に作り上げられていくのですが、アーティストの個別の事例を丁寧に見ることで、はじめて分かったことなのです。 -
学生のみなさんに伝えたいこと
好きなことに踏み出してみる。
きっかけが生まれるかもしれない。
好きなこと、興味のあることに、踏み出してほしいなと思います。もちろんマイペースでいい。私自身もそうでした。映画を観るのは好きでしたが、大学時代に「映画を作りたい!」と意気込むイギリス人講師がいて、お手伝いすることになったんです。学生なので、完全ボランティア。段取りを考えて、先々を考えながら現場を回す。おかげで裏方仕事が得意になり、今の研究にも役立っています(笑)。また、当時の観察法という授業を教えてくださっていた先生が、「水墨画の先生が作品を作るところを見に行きませんか?」と声をかけてくださり、現場に行ったことも一つのきっかけに。当時は単純な興味だったのですが、こうして専門的に研究することになるとは思ってもみませんでした。ちなみに心理学の調査方法にはアンケートなど色々な方法があるのですが、私が主に用いているのは観察法。対象の行動や言動を客観的に見て、記録・分析する手法です。ありのままの現場のデータや、本人も気づいていない行動傾向を把握できる点が特徴です。こうして振り返ると、自分の単なる興味とか好奇心が、自分の研究につながっていくのが面白いなと思います。
先ほど紹介した『問題解決の心理学』の話に戻りますが、この問題解決のもう一つのテーマとして出てくるのが「創造性」なんです。研究を通じて新しい知見を見出すことって基本的にはクリエイティブなことなんですよね。芸術家がどんなことをコンセプトとして作品にしていきたいかを考えること自体が、問いを立てて解決していくプロセス。私たちにとっても学べることはたくさんある。学校教育の中でも、創造性教育の重要性は長年言われてきましたが、特に最近はAIが驚異的なスピードで広がっているので、「人間の創造性とは何なのか」ということを、真剣に考える時でもある。人間の創造性を一言で表現するのは難しいのですが、AIと最も違う点は、人間には体があり、五感があり、感情があることではないでしょうか。それらをすべて使って、私たちは何かを作っている。私の研究に協力してくださる芸術家の方々もそうです。作品のポートフォリオを見せてもらいながら話を聞くのですが、熱中する姿、そのエネルギーにはいつも感銘を受けます。色々なことを教えていただき、育てていただいたと感謝しています。若いみなさんも可能性を秘めている。さまざまな創造性を発揮するポテンシャルを秘めている。大学だけじゃなく、色々な活動の場を見つけて、自分を育てる機会にして欲しいと思います。私が心理学っていいなぁと思うのは、私たちが普段「当たり前」だと思っていることを学問の言葉で説明してくれるところです。たとえば、「どうしてこんなに忘れっぽいんだろう」と悩みがあっても、心理学は「実は記憶にはこういう仕組みがあってね」と説明してくれる。「自分がダメだから忘れる」のではなく、「そういう仕組みなんだ」と客観的に捉えられるようになる。心理学は、少し遠くから見渡すためのレンズを与えてくれるんですよね。当たり前だと思っていたことを問い直し、新しい見方を得る。それは、問題解決や創造性にもつながりますよね。与えられた情報を組み立て直しながら考え、新しい発見や表現を生み出す。その営みを理解することは、人間そのものを理解することにつながるのではないかと思います。私自身も、学問を教えつつ、一人ひとりの可能性を咲かせるプロセスを応援していけたらと思っています。

なんとなくでもいい。
心が動くものにチャレンジしてみる。
あなたが育てたいテーマに
きっと出会えると思います。
3つのキーワード
-
01見る:観察

わたし自身のこれまでの活動を振り返り、三つのキーワードを挙げたいと思います。その一つ目は「見る:観察」です。「百聞は一見にしかず」といいますが、アーティストがどのように作品を制作するのかを実際に見ることで、多くのことが分かってきます。完成作品を見ながら、手の跡や素材感、かけた時間、制作者の想いやクセなどを想像する。そのような時に、実際に制作過程を見た経験というものがとても役に立ちます。見る、観察するの大切さは、研究に限らず、日常の様々なことにも当てはまると思います。
-
02聞く:インタビュー

二つ目は「聞く:インタビュー」です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」といいますが、実は私は、人に何かを尋ねることがとても苦手です。質問することでその人の時間をとってしまうなら、自分で調べよう、考えようと思ってしまう、“人のこと気にしすぎ”な人間です。しかし、聞かないと始まらないことがたくさんあります。これまでもたくさんの作り手の方々から様々なお話を聞かせていただきました。聞いたからより深く分かることが沢山ありますし、もっと知りたい、分かりたいと思うようにもなります。
-
03試す:実験と発見

三つ目は「試す:実験と発見」です。本当に分かるためには、実際にやってみるのが一番効果的です。やってみると大変さや面白さが分かってきますし、意外な発見があります。例えば、映画作りはものすごく大変とか、水墨画で竹を描く時の筆遣いと書道の運筆は同じだと気づくなどです。見て、聞いて、実際はどうなんだろうと試してみる。その実験的な試みが新たな気づきをもたらしてくれます。料理やスポーツなど何でもそうですが、やらなきゃ始まらないですよね。それも一種の実験だと思います。試してみることで、新たな発見が必ずあります。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
写真の色味による懐かしさ感情の想起/SNSにおけるファッションアイテムのサムネイルの使い方による購買意欲の検討/メンズメイクによる相貌印象の変化の検討/色が教室空間の印象に与える影響/音楽が人物印象に与える影響/軽運動により拡散的思考を促し、笑いに対して能動的になることは可能か/映画ポスターのデザイン情報が印象に与える影響について/アニメーション作品の表現の違いが印象と感情に及ぼす影響/口コミ情報が鑑賞意欲に及ぼす影響/楽曲習得過程における認識の変化
著書・論文
-
創造するエキスパートたち:アーティストと創作ビジョン
[著書]単著/共立出版/2020
芸術の創作には、天才的な発想と優れた技術が必要なのか?年を経ても芸術家の創造性が尽きることがないのはなぜなのか?芸術家の活動を通じて見えてくる人間の柔軟性と創造性とは? 心理学研究を通じて、芸術家の創造プロセス、芸術家になるプロセスを見つめる。
-
触発するアート・コミュニケーション
[著書]編著/あいり出版/2023
鑑賞から表現を触発することを目指したアート・ワークショップについて、その理論的背景やワークショップ・デザインの考え方、ワークショップの評価のあり方、実際のワークショップ実践報告などを一冊にまとめた学術書。
-
The process of art-making and creative expertise: An analysis of artists’ process modification.
[論文]共著/Journal of Creative Behavior/2021
現代美術家のアイデア生成方法におけるずらしの側面に着目し、熟達した美術家と若手の美術家の比較からアイデア生成過程の違いを検討した研究論文。










