じぶんの人生を生きる。
その道のりの中で、
研究に出会えました。

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PROFILE

Satomi Ishibashi

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青山学院大学文学部 卒業。一般企業にて営業・人事職に従事した後、信州大学大学院人文科学研究科地域文化専攻社会心理学領域 修了。芝浦工業大学、東京国際大学、東京未来大学等の非常勤講師を経て現職。2024年4月より准教授。

専門:

産業・組織心理学、組織行動

主な担当科目:

モチベーション論Ⅰ・Ⅱ、キャリア形成論、人的資源管理論 など

  • 研究に興味をもったきっかけ

    働く楽しさと適正を知ったアルバイト。
    相手の立場に立つことを学んだ営業職。

    二人の弟のお姉ちゃん。弟たちの面倒を見ることがあたりまえの環境だったので、学生時代から「働く」ということに興味がありました。大学進学で上京すると、地元にはない面白いアルバイトがたくさんあってワクワク。テレビ局のアシスタントやリポーター、ドラマのエキストラ。なんでも楽しかったけど、経理事務のアルバイトは、3日間で辞めました。そうか、世の中には向いてる人もいるけれど、私には合わないんだな…。アルバイトは発見の宝庫だと思った。百貨店の子ども用品売り場で、うさぎの着ぐるみを着て踊る仕事もやりました。重い、暑い、キツイ。周りは体育会系のお兄さんたちばかり。なぜこんな所に来たの?と周囲は不思議な顔。日頃から体を鍛えていないと、簡単に務まる仕事ではなかったんですね。一番好きだったのは、店頭で商品をPRするキャンペーンスタッフ。何が面白いって、工夫次第で売上が変わるんですよ。2月にチョコレートを売るなら、「とろ〜り甘い」とオノマトペを使ってみたり、「ハッピーバレンタイン!」ってお声がけしてみたり。ふりかけを売るなら、おにぎりを手に持って「ふっくら美味しい!」と形容したり、「3時のおやつにもぴったり」と用途を提案してみたり。人に働きかけるってこんなに面白いんだ!と目から鱗の出来事でした。このように「自分の仕事や働き方を工夫し自らの仕事を形づくっていくこと」は、専門用語で「ジョブ・クラフティング」と呼ばれます。これは、生き生きと仕事を続ける上で重要なこととして研究の対象になっています。当時はこの言葉も知りませんし、まったく意識せずにおこなっていました。


    大学卒業後は営業職として医薬部外品・化粧品メーカーに就職しました。若い女性であっても裁量権を持って主体的に働ける会社だったからです。当時は地域の代理店に卸して販売してもらう体制だったので、私のお客さまは販売店の社長。お客さまの会社は化粧品以外にも不動産など他事業も展開している会社がほとんどなので、まずは化粧品事業に本気になってもらうところからのスタート。経営の経験も知識もない私に何ができるのだろう?ヒントになったのが「自分の都合で仕事をするな」という上司の言葉でした。営業には目標のノルマがあるのでそれを達成したいわけですが、相手にとっては関係ないことなんですよね。ノルマは私の都合であって、お取引先にはどうでもいいこと。販売実績がよくない場合は、月末になると取引先に仕入れてくださいと頭を下げお願いにいくわけなのですが、私はそれをやらなかった。では、どうするか?まずはお客様を知ることからはじめました。何が好きで、何に興味があって、どれだけ儲けたいと思っているのか。とことん話を聞く。どうすれば社長の望む目標を達成できるか、一緒に考えるスタイルにしたんです。たとえば、雑談から「軽井沢に別荘を購入するのが夢」というお話を伺ったら「売上が上がれば買えますよ!」と、社長の興味関心にあわせて、一緒にプランを立てる。一緒に頑張る。2年目になる頃には、新人研修に呼ばれて「おねがい営業と提案営業の違い」というテーマで講師をしていました。この営業スタイルのベースにある考え方って、モチベーションの理論で説明されている内容なんですよ。当時はまだ「モチベーション」という言葉は一般的に知られていない時代でしたし、もちろん私も知りませんでした。

  • 研究内容について

    「いま生きている場所を研究にするといいよ」と恩師。
    子育てしながら大学院、論文制作。

    仕事大好き人間でしたが、大きな転機が訪れました。学生時代からお付き合いしていたパートナーとの結婚です。相手は全国転勤がある会社員。いまと違ってリモートワークもない時代ですから、転勤が決まれば、私は退職をせざるを得ない。当時は仕事にすべてを注いでいたので、退職は辛い選択でした。それでも家族を優先したいと思った理由があります。私が3歳の時に亡くなった母のことです。親と過ごす時間はとても幸せで貴重な時間。2度と戻ってこない。だから、自分に子どもが生まれたら一緒に過ごす時間を大切にしようと決めていたのです。そうは言っても、仕事人間が突然縁もゆかりもない土地で専業主婦になるのも大変です。よほどひどい顔をしていたんでしょう。近所の禅寺で住職が心配して声をかけてくれました。話を聞いてもらったところ、「人生には、やりたいことができないという時期がある。子育てしながらでも10年続けられる何かを見つけてはどうですか?」とアドバイスをもらいました。ちょうどその時、社会心理学の内藤哲雄先生の本を読んでいて、もっと知ってみたいと思っていたんですね。調べてみると、転勤先の信州にある信州大学にいらっしゃるじゃないですか!無知とは怖いものですね。私は3歳の子どもの手を引いて内藤先生の研究室に向かったのです。

    今すぐには大学院には通えないが、勉強したいということ。自分なりに心理学を学んでいるが、この先どう学べばよいかアドバイスをいただきたいこと。5年間たまっていた学びへの渇望がマグマのように湧き上がってきました。先生は「1年間聴講生をして、次は学部の入学ではなく、研究したほうがいい」とアドバイスくださいました。それから専門用語と格闘して、統計に苦戦したりと、専業主婦の挑戦がはじまりました。どこからエネルギーが湧いたんでしょう。今となっては自分でもわかりません。大学院入学時は、企業の現場に興味があったのですが、子育てしながら企業に入り込んでデータを取得するのは難しい。そこで先生が「いま生きている場を研究の場にしたらいいよ」とアドバイスくださった。その時、父が病気になって入院していたりして、家族が介護をするようになっていた時でした。今生きている場所が研究になる。子育ても、介護も、研究の糧になる。これは心理学の面白い点だと思います。介護する人と介護される人のコミュニケーション。両者の物理的な距離と心理的な距離。寝たきりになった父と過ごす時間が研究の素材となっていきました。

    大学院卒業後は、信州の産学連携専門調査研究員として地域ブランドの調査に関わるなどプロジェクトスタイルの活動をメインとしていました。夫の転勤でまた東京に戻ると、内閣府専門調査員としてベンチャー企業の調査などに従事。子どもが小学4年生になり、そろそろ働き方を広げたいと、組織人事コンサルティング会社のマネージャーとして企業の経営者を支援する仕事も長く経験。プロジェクトメンバーとして経営者や人事管理者の方と短時間で信頼関係を築く。そしてともに知恵を絞りながら、現場の問題解決へ向けた施策を打ち出し実行する。現場に還元できる研究がこんなにあるんだと実感できて大きなやりがいになりました。スピード感があり充実していましたが、解散を前提としたプロジェクトチームでの仕事だと最後まで責任を持てないところがあり、もどかしさを感じることも。もっとダイレクトに貢献できることはないかなと考えて、挑戦したのが大学の講師でした。今までは企業側を支える仕事だったけど、これから社会に出ていく学生を支えることも意義のあることだと思ったんです。担当した授業は組織心理学。大学からは「学生が就職後に必要となるコミュニケーションとモチベーションを教えてください」と言われました。あれよあれよという間に講座が増えて、気がつけば複数の大学で11コマも担当していました。いろんなご縁が重ねって、2021年から東京未来大学の教壇に立っています。

  • 学生のみなさんに伝えたいこと

    インターネットで答えを探せる時代だからこそ、
    「感じる」ことを大事にしてほしい。

    今東京未来大学ではモチベーション論などの授業を担当しています。元々は名誉学長である角山先生が開学時からご担当されてきた授業。後任として務めを果たすことができるのか。大きな不安がありました。ところが、角山先生はとても丁寧にご指導くださいましたので、不安はエネルギーに変わりました。学びとは情報を伝えて暗記してもらうことではないですよね。受け取った人が、自分なりに消化して、活かしてもらって、ようやく学びが活きる。授業のカリキュラムは決まっているものの、一つ一つの内容にどんな背景があって、どんな意図があるのか。どんなお気持ちで伝えているのか。角山先生にとことん聞いてまとめていきました。その内容が反映されているのが2023年10月に完成した教科書『モチベーションの心理学』(サイエンス社)です。学生たちに学んでほしいことを凝縮させた一冊。楽しく学んでもらえると嬉しいです。

    大学時代の今、何を学ぶか。身につけるか。私の一番の願いは、社会の一員として主体的に最善の考え方を導きだせるようになってほしい、ということです。これは、石橋ゼミの目標でもあります。組織成立の3つの条件として、「共通目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」という3つも掲げています。最初の頃は、ディスカッションの際に遠慮して意見を言わなかったりして、コミュニケーションがスムーズにとれないこともあります。でも、どうだった?と振り返り、改善を積み重ねていくと、どんどんできるようになっていくんです。できるようになると、自信もつく。また、ゼミではそれぞれの役割を決めて活動しています。ゼミ長、副ゼミ長、イベント・広報担当、調査サポート担当など。得意・不得意もありますから、足りないところは補いあって、一つの組織を作っていく。自分で言うのもなんですが、今年はすごくいいチームができたんです。彼・彼女たちは、学んだことがいい組織づくりにつながるという実感を持って社会に出ていく。一つの成功体験だと思います。学生のみなさんには、知識や理論を学ぶことも大事ですが、「感じること」を大事にしてほしいですね。五感を使って感じてほしい。人は何かを言語化する前に、すでにいろんなものを捉えているんです。言語化しながら、それって何かな?と探っていく。そして、その中に「物事の本質」があることに気づく。インターネットやAIでなんでもできる時代だからこそ、たくさん感じて、たくさん学んで欲しいです。

社会の一員として主体的に、最善の考え方を
導きだせる人になってほしい。
そのために、大学4年間がある。
挑戦して、成功体験を積みましょう。

Humans3つのキーワード

  • 01ゼミ生

    はじめて持たせてもらったゼミ生が卒業したのですが、最後のゼミは大号泣。最終日に贈り物をいただいたのですが、1回目のゼミの時から一度も欠かすことなく撮影した写真が、アルバムにきれいにまとめられていたんです。コロナ禍ではじまったので最初は全員マスク。どんどんマスクが外れて、最後はみんな笑顔でパチリ。みんなのこれからの活躍、期待しています。

  • 02ランニング

    走ることが好きです。走るっていつでもどこでもできるし、自分のペースで走れるから。目標があると、頑張れる。大会や記録というよりは、「最低限走れる自分でいよう」というのが今の私の目標です。1週間で10kmは走ろうと決めています。写真はシンガポールにいた時に大会に参加した時のもの。完走するとメダルがもらえるんです。子どもみたいなんですけど、こうしてメダルがもらえると素直に嬉しいですよね!

  • 03スイーツ

    和菓子も洋菓子も大好き。昨日は上野のみはしさんのあんみつを食べました。学生時代の友人と一緒にホテルのアフタヌーンティーに行くこともあります。三段重ねのティースタンド、お菓子がキレイに並べられている様子は、見るだけで癒されますよね。研究室でもあんぱんなどのおやつをよく食べています。たくさん食べたら走らないと、ですね(笑)

こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文

職場におけるソーシャル・サポートと心理的安全性の検討/職場における心理的居場所感の検討/組織における感謝の制度化に関する研究/社会人スポーツサークルにおけるスポーツ・コミットメントの検討:個人・組織適合の観点から/リカバリー経験が生きがい感および職務パフォーマンスにもたらす影響/ワークエンゲイジメントを高める要因の検討-リカバリー経験と職場内外のソーシャル・サポートの効果に着目して-

著書・論文

  • 現代に活きる心理学ライブラリ:困難を希望に変える心理学7-1 モチベーションの心理学

    [著書]共著/サイエンス社/2023

    モチベーション論を学ぶための教科書。基本的な知識としてモチベーションがどのような現象としてとらえられ、どのように研究がすすめられてきたのかを説明。リーダーシップや組織コミットメント、キャリア形成といった組織行動で実践に応用されてきた研究について解説。

  • 自己・他者志向的動機がキャリアレジリエンスに及ぼす影響

    [論文]共著/応用心理学研究/2022

    キャリア発達を促す動機として、個人に内在する自己志向的動機と他者志向的動機に焦点をあて、大学生へのキャリア発達支援においてどのような態度の育成が有効なのかを検討した。

  • キャリア開発の産業・組織心理学ワークブック【第2版】

    [著書]単著/ナカニシヤ出版/2016

    自立、モチベーション、リーダーシップ、ストレスと職場のメンタルヘルス、キャリア発達を軸に、社会人として自立して生きていくために必要な知識をワークを取り入れながら解説。

研究者詳細

Humans