なんにでもなれる。
どこへだっていける。
子どもの想像力と
絵本の世界。
なんにでもなれる。
どこへだっていける。
子どもの想像力と
絵本の世界。
PROFILE
佐々木 由美子Yumiko Sasaki
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幼稚園教諭として勤務後、白百合女子大学大学院児童文学専攻修士課程修了、博士課程満期退学。東洋英和女学院大学大学院人間科学部幼児教育専攻修士課程修了。鶴川女子短期大学専任講師、准教授を経て、2011年4月より東京未来大学こども心理学部准教授。2015年4月より同こども心理学部教授。
専門:
幼児教育、児童文学・文化
主な担当科目:
子どもと言葉、環境指導法、子ども文化
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研究内容に興味をもったきっかけは?
うまくいかないことがあっても、
想像力があれば、人生は楽しい。
赤毛のアンから学びました。うまくいかないことがあっても、うつむかない。「この角を曲がった向こうに、何があるかわからないけど、きっとすばらしい世界があるって信じてる。初めて見る風景が広がっているかもしれない、見たことのないような美しいものに出逢うかもしれない」と、前向きに生きる赤毛の少女アン。どんなに些細なことも喜びに変える想像力ってすごい。アンは幼い頃から私の憧れでした。昔話や神話、児童文学からシェークスピアまで、たくさんの物語に心踊らせ、本の世界にのめり込みましたが、ライフワークにしたいと思うほど、強く興味を持ったのは、大人になってからのこと。幼稚園教諭として子どもたちに絵本や幼年童話を読み聞かせするようになり、絵本がより好きになっただけでなく、大人とはまったく違う反応をする様子にびっくりしたんです。文字を読んでしまいがちな大人に対して、子どもはそれにとらわれず、絵や音なども含めて五感のすべてで感じとる。たとえば『きゅうりさんあぶないよ』(スズキコージ作)という絵本。主人公はきゅうり。「きゅうりさん そっちへいったら あぶないよ」という同じ言葉を繰り返す展開なのに、子どもたちはページごとに変化するきゅうりさんを見て、ゲラゲラ笑ったり、心配したりと、大盛り上がり。子どもたちの絵本の読み方は、大人の凝り固まった固定観念を吹き飛ばしてくれるような力があると感じました。『もこもこもこ』(谷川俊太郎作、元長定正絵)という絵本の楽しさを教えてくれたのも子どもたちです。全ページがシンプルなグラフィックと「にょきにょき」「ぱく」といった擬音のみ。子どもが全身で絵と音を楽しむのをみて、絵本てなんて自由なんだろうと思いました。
絵本や子どもの世界についてもっと深く知りたくなり、悩んだ末に大学院の児童文学専攻に進みました。児童文学を専門的に学ぶことができる学科も当時日本に2つしかありませんでした。ところが、主流は『ナルニア国ものがたり』『ホビットの冒険』といった英米のファンタジーや宮沢賢治など。私がやりたかった幼い子どもの文学や、子どもの内面世界と文学の関わりについての研究はほとんどなかったんです。いまでこそ絵本研究も盛んに行われていますが、絵本学の確立をめざして絵本学会が創設されたのが1997年のこと。まだ歴史が浅いんです。絵本もそうですが、『いやいやえん』(中川李枝子作)など幼年童話といわれる幼児向けの作品は、幼児でもわかる表現と限られた語彙、そして幼児の心に即した物語が語られます。大人にとっては、何が面白いのかわからない、どうして子どもが喜ぶのかわからない。だから評価もされにくいんです。私は大人の視点での評価よりも「子どもがどう読むのか」という観点に興味を持ちました。子どもが物語をどう受け止めるのか、子どもの育ちにとって物語はどのような意味をもつのか。子どもの受け止め方を研究するためには、文学だけではなく子どもや幼児教育のことももっと深く知らなければいけないと感じ、次は別の大学院の幼児教育専攻で学びました。絵本について知ること、子どもを知ること。学問としては別々の領域ではありますが、この2つは私にとっては表裏一体で切り離せないものです。 -
研究内容について
お話よりもチューリップや飛行機に夢中になる子ども。
大人の想像をこえた絵本の読み方。現在は、作品研究はもちろんですが、実際の子どもたちとの触れ合いを通して、子どもは物語をどのように捉えるのかという読者論の研究をしています。たとえば『そらいろのたね』(中川李枝子作、大村百合子絵)という絵本。主人公ゆうじが自分の模型飛行機と引き換えにきつねが持っていた「そらいろのたね」をもらって育てたところ、空色の家が生えてくるというお話。大きく育った家を見たきつねは「僕のだから返して」とみんなを追い出して独り占めしてしまうのですが、家はますます大きくなり崩れてしまいます。このストーリー、あなたならどんな風に読みますか?実際に幼稚園の3歳・4歳・5歳クラスに協力してもらい調査しました。3歳クラスは、赤と黄色が交互に並んだチューリップに夢中。お話よりも、親しみやすいモチーフや、色や規則性を面白がるんですね。4歳クラスでは、ちっぽけな種と立派な飛行機を交換したことに「なんで!」と納得がいかずに最後まで「飛行機はどこ?」と気にしている子が。きっと飛行機が大好きなんでしょう。5歳クラスになると「きつねは大きいものが好きだったんだよ」と同情的な意見も。「花が枯れるのと同じようにおうちが倒れちゃったんだね」と植物の一生として見ている子もいました。大人は「きつねが欲を出したばかりに家が壊れてしまった」と因果応報の話として読む人が多いのですが、子どもたちの反応は本当にさまざま。子どもの感性の豊かさを実感した調査となりました。
実は「絵本って何の役に立ちますか?」という質問を受けることが多いんです。大人は目に見える効果を追いがちで、つい教訓めいたことや学習効果を求めてしまう。でも、こんなに柔軟にいろんなことを感じ取れる時期に、大人の固定観念を押しつけてしまうのは、とてももったいないと思います。幼児期は人格形成の基礎となる非認知能力を培う時期だと言われています。非認知能力とは、数値化して測定することが困難な力。感受性、思いやり、好奇心や探究心、頑張る力や、人と協力する力など、生きていく上で根っことなる力です。文字の読み書きや、計算など後からいくらでも身につけられるものよりも、美しいものを美しいと思ったり、不思議なものを不思議だと感じたりすることが、大事なんじゃないかと私は思います。『はらぺこあおむし』の作者、エリック・カールは、子どもの頃にお父さんと一緒にした虫集めなどの楽しかった経験を作品として表現しています。幼い頃の楽しかった体験は、一生心を支えてくれる温かい記憶になり、表現の元になったりする。子どもって、泥だんごを作るためにちょうどいい土が園庭のどこにあるのか知ってたりしますよね?観察するだけで面白い。存在そのものが面白い。子どもってすごい!という価値観は、私の研究のベースになっています。 -
教育ポリシーについて
保育には正解がない。
だからこそ、子どもたちの心を大切にできる
感性が豊かな保育者になってほしい。ゼミの活動で、保育園に訪問して絵本の読み聞かせをする「おはなし会」という取り組みをおこなっています。どんな絵本を読もうか、どんな手遊びをしようかなどゼミ生たちと話し合い、1歳から5歳のクラスごとに1年間のプログラムを作ります。おはなし会デビュー目前の3年生たちは、ドキドキしながら練習中。絵本を選ぶ際、なぜか学生は絵柄がかわいい本ばかりを選ぶんです。でも、実際に子どもたちに読み聞かせをすると『おおかみと七ひきのこやぎ』や『三びきのやぎのがらがらどん』などの渋い絵柄も大好きなんだとわかる。絵のもつ力を子どもはきちんととらえています。「子どもはかわいいものが好きだ」というのも大人の思い込みだったりするわけです。詩人や絵本作家など、子どもの心で物事を見ることができる大人は「自分の中の子どもと対話している」といいます。これがすごく大事なことだと思う。小さい頃、宝箱を大事にしていたことはありませんか?私は持っていました。きれいな包装紙、リボン、レースなどの大切なものをいっぱい入れて、引き出しに大切にしまっていた。そのまま忘れていた宝箱を、高校生になって見つけた時、中身を見て「なにこれ?」と思ったんです。宝物だと思っていたものが、ゴミに見えて「あぁ、私は大人になっちゃったんだ」とショックを受けたことを今も覚えています。
なぜ「自分の中の子ども」を大事にしてほしいのか。もう一つ理由があります。それは「保育には正解がない」からです。こんな話があります。保育園で飼っていた金魚が死んでしまい、お墓を作ろうなどみんなで話し合っていた時、5歳の子どもが「解剖してみたい」と言ったんです。あなたが先生ならどうしますか?結局、解剖せずに庭に埋めることにしたそうですが、その先生はそれが正解だったのかどうか、後々まで悩んだといいます。クラスの運営としてはリスクの少ない判断だったかもしれない。でも、その子の科学への興味の芽を摘んでしまったんじゃないか、芽生えた新しい心をもっと大事にできたんじゃないかと。とても難しい問題ですね。先生という立場になると、いつの間にか「こうしなければならない」にとらわれがちです。しかしそれは「大人が優れていて子どもは未熟だ」という固定観念の表れでもあるんですね。私と学生の関係性もおなじです。「先生が優れていて、学生は未熟」というわけではありませんから。私自身も「自分の中の子ども」を大事にしながら、学生のみんなと一緒に成長していきたいと思っています。
大人が思っている以上に、
子どもはいろんなことを
感じとったり、考えたりしています。
子どもの小さな心を見逃さずに
汲み取れる大人になろう。
3つのキーワード
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01クマのぬいぐるみ
クマのぬいぐるみが大好き。シュタイフのテディベアをはじめ、くまのプーさん、パディントンなど、どのクマさんもかわいくて、少しずつ集めていたら、いつの間にか部屋中クマだらけに…。ゼミ生たちも私のクマ好きを知っていて、研究室にどんどん持ってくるんです。写真のクマは、ゼミ生が卒業の時に、一人ひとり名前を書いてプレゼントしてくれたものです。
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02フィンランドの公園
フィンランドの保育・幼児教育にも興味があり、保育施設の見学や公園の遊具も見て回りました。写真はフィスカルス(フィンランドの小さなアーティスト村)にあった公園です。木琴のように音をならせる遊具があったり、子ども用のボルダリングがあったり、ブランコの形状や砂場の形状も日本と違うので、とても興味深かったです。なにより、平日、公園で遊んでいる親子が多かったのも印象的でした。
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03ハンドメイド
趣味は手芸です。少女小説の世界観が好きなので、赤毛のアンに登場するようなパッチワークからあみぐるみまでいろんなものを手作りします。ぐりとぐらの飛び出す人形(本文3ブロック目の写真)は、ペットボトルを切って布でくるんで製作。子どもたちが喜ぶ顔を見るたびに創作意欲が高まります。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
オオカミは本当に悪者なのかー絵本におけるオオカミの描かれ方の変遷ー/おばけは絵本においてどのように描かれているか/昔話の受容ー意識調査を中心にー/絵本や映画にみられる日本と欧米のおもちゃの捉え方/女児向けアニメーションにおける変身の持つ役割/シンデレラは何を履いていたのか/『赤ずきん』における赤ずきんと狼の関係性/ジブリ作品における「境界」の意味するもの/浦島太郎は絵本においてどのように描かれてきたのか/妖精はなぜ誕生したか
著書・論文
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保育における子ども文化
[著書]共著/わかば社/2014
子ども文化について諸側面から概観。園生活における遊びや行事を紹介するとともに、絵本や紙芝居、素話、パネルシアターなど子ども文化財について解説。保育活動に展開できるよう、実践例を紹介した。
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3歳児は自然をどのように理解していくのかー絵本と実体験の間ー
[論文]共著/東京未来大学保育・教育センター『未来の保育と教育』8号/2021
保育の中では、さまざまな自然体験が取り入れられているが、3歳児が自然現象をどのように理解していくのか。羽化や冬眠、捕食など1年間の事例をもとに考察した。
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幼年文学における〈シリーズ〉と〈食〉−「ぼくは王さま」と「くまのパディントン」シリーズを中心に
[論文]単著/東京未来大学『東京未来大学研究紀要』15号/2020
幼年文学において、シリーズ作品が活況である。「ぼくは王さま」「くまのパディントン」の2作品を取り上げ、食べ物がキャラクターにどのような性格を与えているのか、また作品やシリーズ全体のなかで、どのように機能しているのかについて考察した。
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動物の視点から体感する自然
[その他]単著/絵本学会『絵本BOOKEND』2021/2021
絵本に描かれた自然について、「14ひき」シリーズや『はなをくんくん』などの動物絵本に焦点をあて、自然がどのように描かれているのかについて考察した。