悩みの種になりがちだけど、
変わるきっかけをくれたのも、
人間関係でした。悩みの種になりがちだけど、
変わるきっかけをくれたのも、
対人関係でした。
PROFILE
日向野 智子Tomoko Hyugano
詳細をみる
昭和女子大学大学院生活機構研究科後期博士課程修了。東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD、立正大学心理学部特任講師を経て、2013年4月より東京未来大学こども心理学部専任講師。2017年4月より同こども心理学部准教授。
専門:
対人・社会心理学
主な担当科目:
対人コミュニケーション論、対人コミュニケーションスキル、ストレスマネジメント論 など
-
心理学に興味をもったきっかけは?
「そんなに嫌なら辞めればいいのに」
部活がきついと言う私に、友人がポツリ。小・中・高校時代と10年間頑張ったソフトボール。監督がインカレ優勝投手だったので練習も厳しく、帰宅したら泥だらけの体のまま畳の上にバタンと倒れる日々。年中日焼けしていて、あまりに黒光りしているので、当時のクラス写真を見ると私がどこにいるか一瞬でわかるほど(笑)。本当に練習が辛かったので、朝起きると「今日も部活か…」と毎日絶望していました。私が「きつい」ばかり言うので、見かねた友人がある日「そんなに嫌なら辞めればいいのに」と言ったんです。その時、ハッとした。「あれ?私きつくて仕方ないけど、自分でやりたくてやっていることだし、真剣に打ち込んでいるな。辞めたいって考えたことは一度もないな…」と。不思議と気持ちが切り替わった。その日を境に、愚痴も一切言わなくなりました。当時は、心理学の「し」の字も知らない高校生でしたが、考えたこともなかった友人のこの一言は目から鱗であり、自分の気持ちに気づくことで、何かがガラリと変わることを体感した瞬間でもありました。
感受性が強く、人の心に関心をもっていた私は、短大の心理学科に進みました。今だとなかなか信じてもらえないのですが、昔は人との関わりが苦手でした。2人だったら自然に話せるのに、3人以上になると苦手で、緊張してしまう。部活のような目的があってサバサバした感じだったらいいのですが、クラスの休み時間のような自由な環境だと自分はどこにいればいいのかわからず、人に萎縮してしまう。でも内心は人と関わりたいし、友達も増やしたい。特に小、中学校の頃は、そんな様子でした。何かあるとすぐに「ごめんね」と言う癖があったのですが、短大に入って寮の友人から「悪いことしてないのに、どうしてごめんねなの?」と言われ、はじめて疑問をもちました。子どもの頃から、友達の機嫌が悪かったり、話しかけてもらえなかったりすると、自分のせいではないかととても不安だったんですね。そのせいか、ノートを見せてもらっても、醤油をとってもらっても、「ごめんね」と言ってしまうようで、「ありがとう」が言えないことに気づいたんです。そこから訓練しました。「ごめんね」じゃなくて「ありがとう」と言おうと。そうやってもがきながら一年くらい経った頃、気づけば友達が増えていました。 -
研究内容について
嫌いじゃないけど、苦手な人っていませんか?
人間関係における苦手意識を研究。短大のカリキュラムは驚くほど高度で濃密でした。心理学実験も本格的。レバーを押すとエサが出てくる仕掛けのスキナーボックスという観察箱にマウスを入れて観察。マウスは偶然レバーに触れたことでエサを手に入れるのですが、最初はなぜエサが出てくるのか分からずウロウロ。次第にレバーを押すとエサが出てくることを学習します。このように、偶然の行動が報酬になり、この行動が強化されることをオペラント学習と言います。0から学習成立、さらに消去までの過程を数日観察し、当時の私は夢中になりました。こうしてどんどん心理学にのめり込むように。紆余曲折を経て、短大から四年制大学に編入すると、社会心理学を専攻しました。どうして人と自分を比べるのか、人前でなぜ不安になるのか。なぜ人間関係がうまくいかないのか。自分自身が人間関係が苦手だったこともあり、やはり身近な人間の行動をテーマにした研究に興味を持ちました。
卒論のテーマは「人間関係における苦手意識」。突然ですが、嫌いじゃないけど苦手な人っていませんか?他の人なら大丈夫なのに、その人といると緊張したり、空回ったり、自分が自分でなくなってしまうような相手。大学4年生の春、仙台の桜の木の下で卒論テーマについて考えたことを、なぜかよく覚えています。ゼミの先生に相談したところ、対人不安や対人恐怖、シャイネスの研究はたくさんあるけれど、対象が人間関係全般というものばかりで、「特定の人の前だと上手くいかない」「嫌いじゃないけど、あの人は苦手」といった特定の人についての研究はほとんどないと教えていただき、本格的に研究することにしました。研究方法は、大学生の頃から現在に至るまで、おもに質問紙調査です。卒論では、「あなたにとって苦手な人はいますか?」「その人に対してどのような感情になりますか?」「その人とどんな関係を望みますか?」などの質問に自由に記述してもらい、回答をカテゴリー化しました。なかなか進みませんが、「苦手意識」は現在も私の研究テーマ。最近は保育現場における、保育士同士のコミュニケーションやモチベーション、就業意欲についても研究しています。たとえば、保育士が保護者とのコミュニケーションに感じる苦手意識や、どのようなコミュニケーションをとれると保育士たちの連携がスムーズにいくのか、保育士のコミュニケーション・スキルが職務ストレスにどのような影響を与えるのかなど。子どもを健やかに安全に育てるためには保育士間の良好なコミュニケーションと連携が必要不可欠です。また、働き手としての保育士の離職には職場の人間関係も影響するため、保育士のメンタルヘルスを向上し、離職を妨ぐためにも、保育士のコミュニケーションに関する研究は大切だと思っています。 -
学生へのメッセージ
人間関係も練習次第。
転んだり、失敗したりしながら上手になっていく。「対人コミュニケーションスキル」の授業では、人間関係も練習次第と伝えています。マイケル・アーガイルという有名な社会心理学者が、人間関係のスキルは運動のスキル(ex,自転車の乗り方)と同じように、訓練すれば上手になると本の中で書いているのですね。また、苦手な人はいて当たり前。無視したり、露骨に避けたりするのは良くないけれど、苦手だと思う気持ちは自然なことだよと学生に伝えています。そもそも苦手は必要だから意識されるはずです。人間は、原始の頃から、腐った食べ物の匂いをかいで嫌悪を感じました。それを食べたら命を脅かすものだと認識するからそうなる。嫌悪は人間にとって健全なメカニズムです。苦手意識も似たようなものではないでしょうか。嫌悪ほどではありませんが、苦手な人とは、それ以上近づくと自分が空回り、心を乱す存在ですから、そうならないよう距離を保ち、自分の心の安定を図っているのかもしれません。また、失敗しちゃダメだと思うほど失敗してしまうように、苦手意識を無理に押さえつけようとすると、余計に空回ってしまう。苦手意識は適応の一つ。ネガティブにとらえすぎる必要はないのです。いっそのこと苦手だと認めて、大人として最低限のマナーを守って、つかず離れずのほどよい距離感を保つ方が、気持ちも楽になるのではないでしょうか。
人間関係が苦手だった私ですが、今では歳月とともにすっかり図太くなりました。もし私が若かったらママ友関係なども気にしすぎて大変だったと思いますが、もう平気(笑)。人それぞれ、私は私でいいんだと思えるようになりました。今は人と気楽に関われる。一緒に楽しみたい。人と関わることで、いいことがいっぱいあったから。高校の時に「そんなに嫌なら部活辞めたら?」と言って気づかせてくれた友人や、短大の時に「ごめんねじゃなくて、ありがとうなんじゃない?」と指摘してくれた友人など、人との関わりが今の私を作ってくれたという実感があります。進学もそう。四年制大学への編入を迷う私に、ゼミの先生は「受けて受かったら考えればいいんじゃない?」と背中を押してくれました。このアドバイスのお陰で大学、大学院へと続き、今に至ります。昔も今も、たくさんの人に恵まれ感謝しています。未来大は人との関わりが濃い大学ですから、学生のみなさんにはぜひ濃い4年間を過ごしてほしいです。
人間関係はトライアンドエラー。
たくさん挑戦してください。
たくさん失敗してください。
すべての経験と学んだ理論・実践が
あなたの糧になるはずです。
3つのキーワード
-
01漫画大好き
ずっと隠していたんですが、実は漫画が大好きです。特に好きなのは少年漫画。自宅ではスマホで仕事をしているフリして、漫画を読んでいることも…!?子どもが生まれる前の休日は、「今日はダメ人間になる!」と夫婦でキメこんで、漫画をベッドの周りにうずたかく積んで、没頭して一日を過ごすのが楽しみでした。「ママって実はオタク?」と、最近子どもに気づかれつつあります。
-
02アウトドア
子どもも一緒に釣りに行けるようになりました。最近狙うは、タナゴ。けれど釣れるのはクチボソばかり。多摩川ではハゼや川エビが釣れます。エビは素揚げにして塩を振って、パリッといただく。これがとても美味しいんです。子どもが生まれる前は、カヌーでしか行けない所に行って、1週間キャンプ生活したこともありました。サバイバル能力は高めです。画像は、四万十川、口屋内の沈下橋とマイカヌーです。
-
03観葉植物
研究室の緑が癒やしです。アイビーやポトスなど、強くて育てやすいものが多いです。コーヒーの木やガジュマルもかわいいですよ。剪定して水挿しや挿し木にして増やすというのがなかなか面白くて、学生の頃から楽しんでいます。研究室を緑でいっぱいにするのがささやかな夢です。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
親密さが気遣いと友人関係満足度に与える影響/親密度の異なる友人関係が自己開示抑制と孤独感に与える影響/異性からの容姿に対する主観的他者評価と異性不安との関連/大学生の賞賛獲得欲求・拒否回避欲求によるSNSの投稿頻度と内容の違い/新型コロナウイルス下でのマスク着用の有無とネガティブ感情の関係/過去の対人葛藤経験における葛藤方略選択の違いが現在の対人関係に与える影響/いじられ・いじりによる感情と場の雰囲気や空気の変化との関連/児童期の⺟⼦関係と友⼈関係が⻘年期の⼈⾒知りに及ぼす影響/児童期の遊び経験の役割と現在の自己主張行動との関連/家族の親密さと笑いの量が幸福感に与える影響
など
著書・論文
-
子ども学への招待-子どもをめぐる22のヒントー
[著書]編著/ミネルヴァ書房/2017
「第9章 子どもの社会的スキル仲間関係」(pp.104-116)を執筆し、子どもが仲間との関わりの中で幼少期に豊かな対人関係を育む大切さについて、社会的スキルの観点から執筆し、本書の編集を行った。
-
組織行動の心理学 組織と人の行動を科学する
[著書]共著/北大路書房/2019
「第3章 コミュニケーションの促進」(pp.42-67)において、コミュニケーションにおけるミス・コミュニケーションや組織におけるコミュニケーションの特徴、組織コミュニケーションの新しい形などを執筆した。
-
こころの科学220号 特別企画「嫌悪 ネガティブな感情はなぜ生じるのか」
[その他]共著/日本評論社/2021
「子どもの人間関係における『嫌われる・嫌いになる』経験」(pp.53-57)を執筆し、子どもが友達から嫌われること、友達を嫌いになることが、子どもの認知や行動にどのような影響を及ぼすのかについて研究知見をもとに論考した。