夏の日差し、土の匂い。
汗だくで食べるお弁当。
モチベーション研究の原点。夏の日差し、土の匂い。
汗だくで食べるお弁当。
モチベーション研究の原点。
PROFILE
角山 剛Takashi Kakuyama
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立教大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。日本におけるワーク・モチベーション研究の先駆けとなる。立教大学、東京国際大学を経て2011年9月より東京未来大学教授。2012年4月よりモチベーション行動科学部長・モチベーション研究所所長(〜2018年3月)。2018年4月より学長(~2024年3月)。放送大学、フェリス女学院大学、慶応義塾大学大学院講師(いずれも非常勤)、米国ワシントン大学ビジネススクール客員研究員(1992−1993)などを歴任。現在、東京未来大学名誉学長。産業・組織心理学会名誉会員・常任顧問(元会長)、日本応用心理学会名誉会員・理事、人材育成学会副会長など。
専門:
産業・組織心理学
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研究への興味のきっかけは?
モチベーション研究の原点は、
アルバイト三昧の学生時代。私が大学に入学したのが1970年。高校3年間がちょうど大学の学生運動が最も盛んな時期で、高校生も勉強どころではないところがあったんですね。体を動かすのが好きだったこともあって、大学時代はアルバイト三昧の日々でした。工事現場、宿直代行、植木屋、家庭教師、デパートで1日120着の上着を販売したこともありました。
好きだったのは工事現場。鉄枠を組んでコンクリートを流し込んで、固まったら鉄枠をはずすんですが、コンクリートがくっつかないように油を塗っていても、ついちゃうんですね。鉄枠を再利用できるようにケレンという工具を使ってこそぎ落とす。そして再び油を塗る。これを一日中やるわけです。真夏でもやる。ヘルメットで、ランニングの形に日焼けして。楽しかったですね。なんといっても、まかないのごはんがおいしい。豪華なお弁当じゃないですよ。ペラペラの鮭とかなんですけど、汗だくになって働いた後はとびきりおいしいんですよ。造園の現場では春先の凍った土が溶け出して重たくなって、スコップを持つ軍手が1日2枚はダメになったなとか、その時の仕事の手触りや匂いも覚えています。
忘れられないのが、決まった企業や組織に属さずいろんな現場を転々とする「渡りの職人さん」。事務所の戸をたたいて、一升瓶を片手に「よろしゅうおたのう申します!」と威勢のいい挨拶をするんですが、パンパンと神棚に手を合わせたかと思うと、朗々と歌いだすわけですよ。「めでた〜めでたの〜若松様よ〜」と。その間に事務所の人は金一封用意してお渡しするのですが「次がありますんで」とお酒は置かずに持って帰るんです。一升瓶は「見せ酒」なんです(笑)。これは面白いなと思いましたね。そして、この人たちはどんな気持ちで働いてるんだろうかと気になった。民俗学的な興味だったかもしれませんが、「働く」ということに興味を持ち始め、心理学から探究してみたいなと思うようになりました。
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研究内容とは?
「目標」は働く人にどんな影響を与えるか。
私の恩師は組織心理学の分野で「目標」がもつ効果を実証的に研究した日本の先駆者ですが、1970年代から恩師とともに「目標がモチベーションにどのような影響を及ぼすのか」といった研究を進めてきました。1960年代にアメリカで「目標設定理論」という研究が発表され、組織の中での人の行動が注目されるようになってきた頃。モチベーションという言葉もポピュラーではなく、まだまだこれからという時代でした。海外の専門誌に私たちの研究が載ると、海外の大学や研究者から声をかけていただくことも増え、国境を超えた交流が私の研究モチベーションを高めてくれました。
最近の心理学研究の潮流の一つに「ポジティブ心理学」があります。心理学というと、カウンセラーなどの臨床のイメージから「マイナスの状況の人をいかにサポートしプラスにするか」という印象が強いと思うのですが、健康な人がもっと健康になってもいいように、ポジティブな人がもっとポジティブになってもいいんですよね。私たちが実際におこなった、生命保険会社の女性営業員を対象とした研究では、楽観的思考が強い人の方が、悲観的思考が強い人と比べ契約数・契約額ともに高いパフォーマンスを発揮するという結果も。営業全般に言えることですが、本人の努力にもかかわらず勧誘を断られることは日常茶飯事であり、さらに保険営業の仕事は商材も目に見えないので、大変な仕事なんですね。だからこそ、大変なことをポジティブに考えられることが、この仕事においては強みになるんです。
また「目標は人から与えられるよりも、自分で考えた方が力を発揮できる」と思われがちなんですが、実は必ずしもそうじゃない。人から与えられた目標でも構わないんですよ。親から言われての受験や、上司からの命令なども、本人が納得していれば、モチベーションに差異はないんです。肝は納得度なんですね。そう考えると、部下を伸ばす上司は、「目標設定上手な上司」だとも言えるかもしれません。 -
なぜ東京未来大学へ?
日本初、モチベーションの専門学部をつくる。
日本で初めてモチベーションに関する学部をつくるという壮大な計画を聞いた時、心からワクワクしました。モチベーションに特化した学部なんて、広い世界を見渡してもない。30数年間、自分が取り組んできた「モチベーション」を冠する学部です。喜んで学部開設の段階から関わることになりました。学部を作る際には、文科省に申請が必要です。なぜこの学部名なのか、どんな学生を育てるのか、未来に向けた青写真がいる。
私が念頭に置いたのは、社会のリーダーとして活躍する人材を育てたいという想いでした。モチベーションとリーダーシップは切ってもきれない結びつきをもちます。目に見えないものを概念化して、どう理解して、どう学んで、社会に生かしていくのか。未来のあるべきリーダー像をイメージしながら、アクティブラーニングを主体としたカリキュラムを組み立てました。一期生が入学してくると教職員一同大張り切りで、学生に情熱を注ぎました。注ぎすぎて暑苦しかったかもしれない(笑)。決して楽ではない厳しい4年間だったと思いますが、奮闘する学生たちの姿に私自身も大きな刺激をもらいました。
学部開設から9年、私も学長という立場になりましたが、社会をリードしていくような人に育ってほしいという思いは当時から変わりません。変わったと言えば、教え方でしょうか。たとえば1990年代と現在では、学生の性格も成長の仕方も違います。時代や学生の変化にあわせて変えていくことが大事だと思っています。私自身のモチベーションですか?あまり変わらないですね。ずっとハイモチベーションの状態というのも辛いですし、辛い時は早く過ぎてほしいと思うのは、みんなそうですよね。どんなに苦労しても、落ち込んでも「今ちゃんとここにいるじゃないか」って思えること。モチベーションが高い・低いだけじゃなくて、そう思えることが大事なんじゃないかと思います。そうすれば、きっとまた頑張れるはずですから。
ずっとハイモチベーションも辛いですよ。
落ち込む時があってもいいんですよ。
「今ちゃんとここにいるじゃないか」
って思えれば、きっとまた頑張れますよ。
3つのキーワード
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01催眠術入門?
心理学に興味をもったきっかけは、中学の時に催眠術の本を読んだこと。実際に友人相手にやってみたら、本当にかかってしまったんです。これはすごいぞと思いまして、それから心理学に関する本を読み漁るようになりました。実際には催眠術と心理学は全く別物ですが、この勘違いがなかったら心理学の道に進んでいなかったかもしれません。
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02先生たちのスキー合宿
アメリカに滞在していた時、冬は毎週末スキーに出かけていました。車で1時間走れば、いつでも最高のスキー場に行けるんです。東京未来大学にもスキーが好きな先生が多くて驚きました。検定員の資格まで持つ先生もいるんです。先生同士で集まって、1泊2日スキー合宿なんてこともしています。
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03屋上プランター農園
妻は花が好きなのですが、私はもっぱら野菜です。じゃがいも、サトイモ、ねぎ、ミニトマト、玉ねぎ、おくら、バジル、他にもまだまだ育てています。なぜ野菜かというと、食べられるからです。美味しく食べるという目標が、日々の水やりやお世話のモチベーションに。学生時代の植木屋のアルバイト経験は・・・活きていません。野菜ですから(笑)。
著書・論文
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組織行動の心理学
-組織と人の相互作用を科学する-(産業・組織心理学講座第3巻)[著書]編著/北大路書房/2019
組織行動研究の位置づけや研究動向を概観。「コミュニケーション」「意思決定」「リーダーシップ」などのテーマを取り上げ、その理論や周辺領域との関連性、今後の展開を解説。集団行動の知見を体系的にまとめ、組織開発の手掛かりを探究。
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産業・組織心理学を学ぶ
−心理職のためのエッセンシャルズ−(産業・組織心理学講座第1巻)[著書]共著/北大路書房/2019
産業・組織心理学会創立35周年を記念して、学会企画として全5巻の専門書を刊行、編集委員の一人として第2部「組織行動を科学する」他を執筆。
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POWERフレーズ -Only oneを支える言葉-
[著書]単著/世界文化社/2018
日本テレビ番組「POWERフレーズ」による企画。日本のトップアスリートの心を支え、力の源となった「力言葉」から日々の生き方を学ぶ。「その一言」に秘められた意図や効果について心理学の立場から解説。