日常の中に
特別を見出す。
地域・コミュニティを
研究する醍醐味。日常の中に
特別を見出す。
地域・コミュニティを
研究する醍醐味。
PROFILE
森下 一成Kazunari Morishita
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琉球大学大学院理工学研究科総合知能工学(環境情報工学講座)博士後期課程修了、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻(建築)修士課程修了。上武大学准教授を経て、東京未来大学モチベーション行動科学部教授。社会調査協会 専門社会調査士。キャリアカウンセラー(GCDF-Japan)。
専門:
コミュニティデザイン、都市・地域計画、地域連携
主な担当科目:
コミュニティデザイン、公共経営と政策、都市経営論 など
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研究内容に興味をもったきっかけは?
大学時代、サークルとボランティアがきっかけで、
理想のコミュニティについて考えた。愛読書は百科事典。小学3年生なのに政治経済の事典がお気に入りというちょっと変わった子どもでした。心配した親は「普通の男の子」らしく育ってほしいと少年野球チームに入れたりしたんですが、それでもマニアックな趣味は変わらず(笑)。地域・コミュニティや人間の集団組織に興味を持ったのは、大学1年の時に友人に誘われて野球サークルを立ち上げたことがきっかけです。なんとなく参加したものの、この運営がなかなかうまくいかない。人間関係や組織の組み立てって難しいなと。それが理想的なコミュニティや集団について考えるようになった出発点のような気がします。同じ頃に、発達障がいを持った子どものソーシャルスキルトレーニングを地域のみなさんがサポートする取り組みを知り、そこでボランティアをしたこともきっかけの一つです。地域が教育の受け皿になっている様子を見て、教育という営みは学校以外にもあるものなんだと改めて知ることができました。
大学院では政治が地域に及ぼす影響を特に教育の面にしぼって研究しました。耳慣れない言葉ですが、「教育権」の所在、教育の内容を決定する権利は誰にあるのかといった問題のことです。当時、教育権は国家が持つ、あるいは国民が持つ、という2つの学説があったのですが、私の大学院の師匠が「そもそも、地域が持っているといえるのではないか」とおっしゃった時に、「なるほど、自治体ごとに教育委員会がある教育行政にも合致しているな」とストンと腑に落ちました。そう思ってからは政治学よりももっと広く社会学の観点からも、地域・コミュニティを探究してみたいと思うようになりました。また、1995年の阪神・淡路大震災からも大きな影響を受けました。高速道路が横倒しになり、地域が破壊される様子を見て、政治学や社会学といったソフトの側面だけで地域・コミュニティを研究することの限界を感じたのです。建築学や都市計画など工学の観点を学ぶことで、より多角的な視点からコミュニティをとらえたいということで、建築学・都市計画学の視点からコミュニティについて学びなおし、工学で学位を取りました。一般的に研究者は、一つの分野で、学士・修士・博士と縦に上がっていく方が多いと思いますが、私の場合はコミュニティを把握するために諸学を学ぶことになったので、ちょっと珍しい経歴かもしれません。 -
研究内容について
祈りの空間は、子どもの遊び場でもある。
人々の日常に溶け込む、沖縄の神アサギ。2回目の大学院生として建築・都市計画を学んでいる時に、人生が変わる出来事がありました。私のライフワークとも言える研究テーマ、沖縄の神アサギ(カミアサギ)との出会いです。神アサギとは、琉球王国の成立以前に成立した集落に必ず1つはあると言われている祭祀空間のこと。建物があることがほとんどです。場所によっては殿(トゥン)とも呼ばれています。祭祀施設というと、神社やお寺のように立派な建物や装飾をイメージしますが、神アサギは柱と屋根だけの素朴な造り。でも神アサギは集落のほぼ真ん中、あるいは集落の中で一番重要な場所に建っています。ヨーロッパの街は広場を起点に街が広がっている例が多いのですが、神アサギも同じような空間になっている例が少なくありません。祭祀の時には神々しい神アサギですが、普段は人々が暑い陽射しを避けてゆんたくする(おしゃべりする)場として使ったり、子どもが遊んでいたりと公園のようになっているところが面白いところ。日常性と非日常性を兼ね備える不思議な空間に私はすっかり魅了されてしまいました。琉球大学大学院に行き、本格的な研究を開始。沖縄本島には300もの神アサギがありますが、その全てについて調査を実施し、神アサギと殿(トゥン)をめぐるコミュニティの現状を分析し博士論文にまとめました。
忘れられない風景があります。一人のおばあさんがトコトコと神アサギの前にやってきて、ひたすら何かを祈っていたんです。その姿がとても美しかった。人は祈る時、嘘をつかないものですよね。ただただ本心と向き合っている。ありのままの本心を放つ場所、祈りの空間が、あらたまって身構えないですむ、ごく身近な場所にあること。その奥深さにハッとしたのです。別の場所では、米軍基地のフェンスの前にちょこんと座って、ござを敷いて祈る方にも出会いました。戦前に作られた祈りの場所が基地の中にあってなかなか入れないからフェンス越しの祈りにならざるを得ないんです。その姿も沖縄が抱え込まされている問題が凝縮していようで印象深かったですね。たとえば、二礼二拍手一礼などの形式を間違わずにおこなうことが、祈りの本質ではない。ピカピカの法具をきれいに並べ立てて儀式をすることも。沖縄で見た虚飾のない祈りの姿、そしてそのもとに集う人間の集団は、私に祈りの尊さをあらためて教えてくれた気がします。私たち現代人は忙しさを理由にして、何か大切なものを忘れているのではないか、との思いに駆られました。神アサギの研究は、地域・コミュニティを超えて、人間の幸せや豊かさについて考えさせられる大きな転機となりました。 -
学生へのメッセージ
地域・コミュニティの中で、
自分の感覚を磨こう。
外に出ると、チャンスが広がります。興味関心に導かれるままに研究を続けてきた私ですが、琉球大学時代の先生が民間の研究所を立ち上げた時にお声がけいただいたことをきっかけに、研究者の世界に足を踏み入れ、大学の教壇にも立つようになりました。でも私は、結局、現場に身を置き、対象を観察して本質を捉えようとするフィールドワーカーなんでしょうね。沖縄で300余の集落を悉皆調査(全数調査)してみて、自分が何者であるかということを気づかされた気がします。現在はコミュニティデザインなどの授業を持ち、ゼミの活動では地元の企業との様々な産学連携プロジェクトを進めています。未来大のある足立区は伝統的に製菓業が盛ん。地元の和菓子店と学生が協力して新商品を開発したり、商店街のお祭りをお手伝いしたりと、企業や地域の中に飛び込むチャンスが豊富です。内気だった学生が会議を主催して地域の大人と渡り合えるようになった姿を見れたり、お世話になっている商店街をふらっと覗いたら、在学中は社交的ではなかった卒業生がお店の人と談笑しているシーンに出くわしたり。人は人と触れ合うことで成長するということを日々実感します。
学生には「目に見えるものだけでなく、感じた何かを大事にしよう」と伝えています。フィールドワーク先で人の話を聞いたり、多種多様な刺激を受けると、いろんなことを感じるようになる。アンテナが育ってくる。だから、学校でもバイト先でもない、異なる経験ができる場所に出て行って観察眼を磨き、感覚を育てようと。余談ですが、未来大から京成関屋駅に向かう途中に小さな祠(ほこら)があるんです。途切れることなくお線香が焚かれ、お花が飾られ、常にキレイに手入れされている。神アサギではありませんが、きっと同じように地域の人々に大切にされている場所なんでしょう。水害が多かった地域でもあるので祈らざるをえない理由があったのかもしれない。気づいていない方もいるかも知れないし、お地蔵さんと勘違いしている方もいるでしょう。正しくは十一面観音さんです。そしてなぜその祠を置くことになったのか、今も大切にされているのか、いま見ているもののなかに見えないものを見いだし、調査へ向かうエネルギーにしていくんです。こんなふうに、目に見えないことを感じられるようにすることって、コミュニティをデザインしていくときにとても大事な力になるんです。構想する力といってもいいですね。研究の端緒、あるいはそれが新しい商品の開発であったとしても観察からもたらされるヒラメキはとても大事です。学生にはそうした感覚を磨いてほしい。そうすると、いつもの帰り道でも、こうして地域・コミュニティを学ぶきっかけに出会える。人間の行動や人のつながり、歴史まで想像することができる。だからなのか、地域・コミュニティを学んでいると、自分にとっての大事な人や場所、モノとは何かを考えさせられる機会が多いように思います。大切なものが見つかったら、もっと学びたくなる。楽しくなる。なんだか面白そうだと思ってくれた方、リュックサックを背負って一緒に出かけましょう。
学校でも、バイト先でもない。
知らない場所に飛び出してみる。
いろんな人と触れ合ってみる。
そこで感じたことが、あなた自身を
前に進ませてくれるはずです。
3つのキーワード
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01心の故郷・沖縄
沖縄の風土は本当に穏やか。人々の性格ものびやか。お金がたくさんなくても、休みの日には海にビールとおつまみを持って行ってビーチパーティ。空と海を眺めているだけで自然の豊かさを堪能できます。時間がゆっくり流れているように感じます。人間の幸せってなんなんだろう。豊かさってなんだろう。お金よりも大切なことについて、考えさせてくれる場所でもあります。ちなみに私はウチナーグチ(沖縄方言)もネイティブ並み?生まれ育った東京の下町よりも沖縄の方を地元だと感じてしまうくらい、心は沖縄にどっぷりです。写真は那覇市壺屋のシーサーです。
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024“人”のネコ
ネコは家族であり、親友、ときに人生の師。数え方は4匹ではなく「4人」。ゼミ生にもネコの好きな学生がいて、彼は卒業研究でネコに関わる研究をするそうです。地域のネコ、地域の生き物と人間はどう共存するかについて調べていて、調査・研究の進展を楽しみにしています。
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03野球サークル
大学時代に立ち上げたサークル。webで調べてみたら、なんと今も存続していました。早稲田大学の軟式野球サークル「Deweys(デューイズ)」。実は名付け親は私です。哲学者・教育学者デューイの名前から付けました。学部時代、尊敬していた教授のご専門がデューイ研究なので、といいたいところですが、バイト中に突然ひらめいたんです。ちなみに、野球そのものについては「親からやらされた」という意識が強いせいか、それほど好きではありません(笑)。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
古民家をつなぐあだちの魅力発信事業プロジェクト報告書 -高齢者に対するまち歩きのコース提案-/アニメツーリズムによる現状と課題/喜田家との協働による商品開発プロジェクト報告書/ハザードマップの有効性について /地域連携「あだち紙ものラボ プロジェクト」報告/地域連携・協創による商品開発「ほめじょーず」プロジェクト報告書/地域イベントを告知する媒体と集客効果に関する一考察/商店街での信用金庫の役割〜北千住駅前・旭町商店街におけるCSRをもとに〜/都市における公園の遊具の変遷について〜対戦型ゲームプレイヤーのもつ遊びのイメージを基に〜/県庁所在地の地域活性化と鉄道インフラとの関わりに関する一考察―前橋駅と高崎駅との比較を通じてー
著書・論文
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多文化社会を拓く
[著書]共書/ムイスリ出版/2019年
第3章異文化の流入と公共空間の変容、第4章異文化の積極的受容と地域資源化の課題、第6章協働と協創、第7章多文化社会に向けたコミュニティ・デザイン 担当
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神アサギ空間における土俵及び神棚の発生 ー沖縄本島国頭村・奄美大島・加計呂麻島の比較考察ー
[論文]単著/比較文化研究(日本比較文化学会) (139) /2020年
祭祀空間であるとともに日常的に人々がコミュニケーションを図る空間、神アサギ・トゥンについて、沖縄本島北部地域(やんばる)と奄美諸島との差異を明らかにした。より本土の文化の影響を強く受けざるを得なかった奄美諸島は土俵や神棚を設置していく過程を明らかにした。
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公民館における定期利用団体と その活動の持続可能性について ー 渋川市中央公民館での調査とコミュニティ・デザインの実践をもとにー
[論文]単著/地域マネジメント研究(地域マネジメント学会) (4)/2019年
群馬県渋川市での社会調査をもとに、公民館で活動する諸サークルが「和のパラドクス」に陥っていることを明らかにした。和のパラドクスとは、集団内の「和」を強調するあまり、他集団との「和」が成り立たないこと。