人は物事や世界を
どうとらえて見ているのか。
コンピュータではないからこそ
見えることがあります。
人は物事や世界を
どうとらえて見ているのか。
コンピュータでは
ないからこそ
見えることがあります。

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PROFILE

Tsuboi Hisako

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学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士後期課程中退。大学入試センター進学適性研究部門にて非常勤職員。日本電子専門学校にて非常勤講師。鎌倉女子大学短期大学部及び児童学部子ども心理学科にて専任講師。「臨床発達心理士」、「学校心理士」。2008年4月より東京未来大学こども心理学部講師。2011年4月より准教授。2016年4月より教授。

専門:

認知心理学・発達心理学

主な担当科目:

知覚・認知心理学、感情・人格心理学B、子ども心理学実践実習など

  • 心理学に興味をもったきっかけ

    「心は沼のようだ」という言葉を解析する。
    心理学って、こんなこともできるんだ。

    中学生くらいの頃だったと思います。ふと、心はどこにあるのかな?と気になったんです。人間って、見た目と本心が違うこともあるじゃないですか。だから、心ってどこにあるんだろうなと。今思い返せば、少し理屈っぽい子どもだったかもしれません(笑)。大学に進学したのは1980年代中頃。心理学にのめり込むきっかけになったのは、先輩の発表を聞いていた時でした。「心は沼のようだ」という言葉を、複雑な統計を使って分析していたんです。ちょっとびっくりしました。だって、「心は沼のようだ」って、とても曖昧な言葉じゃないですか。「心」の部分を「愛」に入れ替えたらどうか、「沼」を別の言葉に入れ替えたらどうか。それを人はどう判断するのか。形があるわけではない曖昧なものを研究対象として分析する。心理学ってこんなことができるんだ!と純粋に驚いたことを今でも覚えています。

    大学の卒論では、「分類・カテゴリー化」について書きました。曖昧なものも含めて、言葉を分類するんです。大学院では「カテゴリー化」について発達的検討も含めて研究しました。分類、カテゴリー化というと、白黒決めるものだと思われますが、実際の世の中には白黒つけられないものがたくさんありますよね。曖昧さの程度もいろいろ。典型性の程度でまとめ方を変えると、覚え方も変わってくるんじゃないか、という前提で分析していきます。当時は、野菜・果物など基本的なものを使って分類・カテゴリー化していました。分類の仕方、覚え方を比較して検討するんです。スポーツだと、典型性の高いものとしてバレーボール、バスケットボールなどがありますが、最近だとe-スポーツもありますね。コンピューターでやるものもスポーツなのか。そこで、多少の基準も必要なのでは?ということになる。落とし所、とも言えるかもしれないですね。「覚えやすさ」というのは、一つの基準なんですね。基準をきっちり決めたほうが覚えやすいのか。曖昧なままで覚えたほうが覚えやすいのかどうか。探索的に考えていきます。

    大学院を出たあとは、女子短期大学の教員になりました。幼稚園や保育園の先生になる学生を教えることになったのですが、それがきっかけで発達心理学についてもさらに深く学ぶように。幼児期から児童期の子どものカテゴリー化というものもあります。幼児と小学生では、カテゴリー化の仕方も違うんです。たとえば、物が描かれているカードを並べて、カードでグループを作ってもらう。子どもは何でグループ分けするか、というところを見ていきます。小さい子どもは、「赤いもの」や「丸いもの」など色や形で分けることが多い。成長していくと「おさるさん」と「バナナ」を同じグループにしたり、グループの作り方が変わってくるんです。物事の捉え方が、発達段階によって変わっていくということが、とても興味深いと感じました。子どもたちは、カテゴリー化に限らず、すばらしい発想やアイディアを持っていますね。

  • 研究内容について

    人間の情報処理能力には限界がある。
    だから、分類・カテゴリー化して覚えている。

    そもそもなぜ分類分けやカテゴリー化の研究があるのか、という前提の話をしたいと思います。私たち人間は、コンピューターと違って一度に処理できる情報が限られています。すべての情報を処理しようとすると、パンクしちゃうんですね。だから、似ているものはまとめてカテゴリーとして把握したり、抽象化して覚えたりしているわけです。私が大学時代に、先輩の発表を聞いて感銘を受けたのは、比喩表現という曖昧なものを分類して、統計を使って分類していた。そのタイプ分けの仕方が、印象深かったからなんです。そう、認知心理学では“人間もある種の情報処理装置”と、とらえられることもあります。私たちは環境から受けた情報をどう処理するか。見たり、聞いたりしたことをうまく情報処理できないと、いろんなことが気になって前に進めなくなってしまうんです。

    最近の私は「記憶」の研究にシフトしています。過去と現在をつなげる心理学。自伝的記憶や、エピソード記憶などの領域です。はじめは発達心理学を仕事としてやってきたんですね。記憶は過去と現在を見るもの。発達心理学も過去から現在を見ていくものじゃないですか。重なる部分があるんです。元々認知心理学の中でもカテゴリー化の研究をしてきたけれど、少しずつ記憶の方に興味がうつったという経緯があります。お菓子の自伝的記憶について調査したこともあります。昔食べたお菓子のエピソードを聞いて、何が印象に残っているのかを深掘りするんです。眠くてあくびしながら食べたこと、のどを詰まらせそうになって気をつけて食べるようになったことなど、いろんなエピソードが出てきたのですが、調査してわかったのが、お菓子そのものよりも、当時遊んでいた友達や、お菓子を通した人との関わりなどの記憶がたくさん出てきたということ。連続的な流れの中で、区切りをつけるということで、カテゴリー化、発達、記憶とで、なんらかのつながりを感じることもあります。過去は過去として懐かしいもの。でも、今すぐ何かに具体的に役立つわけではない情報。でも、その人にとっては大事なものなのです。過去と現在をつなげて考える記憶の心理学も奥深いので、ぜひ学生のみなさんにも学んでほしいです。

  • 学生のみなさんに伝えたいこと

    「好き」という気持ちが一番のエネルギーになる。
    時間をかけてもいい。好きなことを見つけてほしい。

    私のゼミでは、みんな自分が好きなことをテーマにゼミ活動をおこなっています。香水が好きな人は香水と記憶について。推しがいる人は推し活について。私は香水のことも推し活のことも詳しくないので、その領域のことは学生に調べてもらい、主に私は記憶の心理学の観点からアドバイスしています。だから学生も自分の好きなことを主体的に調べて考えるんです。一番嬉しいのは、学生たちが楽しいと言ってくれていることです。卒論も楽ではないはずなのに楽しいと言っている。好きなものへのエネルギーってすごいんですね。だから、自分が好きなことを時間をかけてでもいいから見つけてほしい。最近、3年生の後半になって卒論のテーマを変えたいと言ってきた学生がいました。通常3年生の夏休みにはテーマを模索して、秋学期から卒論の構想を考えるスケジュールなんですが、後になってテーマを変えたいと。また一からやり直しになるので大変なのですが、そこまでしてでも変えたいと思えるもの、夢中になれそうなものを見つけたんだ、と思うと応援したくなりました。やっぱり「学びたい、探究したい」という気持ちが一番のエネルギーになりますから。

    最近もう一つ嬉しいことがありました。ゼミの卒業生がMIRAI FES.の文化祭部門に遊びにきて、ゼミで学んだことが仕事で役立っていると教えてくれたんです。彼は「音楽の記憶」をテーマに卒論を書いたんですね。分析は苦手だなぁと言いつつ苦労しながらも卒論を仕上げて、福祉施設に就職。今、高齢者の方と歌を歌ったりする機会があるそうなのですが、入居者さんの音楽のエピソード記憶がすごいと実感するんだそうです。「こんなに深いとは思わなかった!」と興奮気味に話してくれました。自分が学んだことが、社会で役立つんだと実感してくれることは何よりも嬉しいことです。大学生活も面白いんですが、社会に出ると経験がぐんと広がりますよね。大学で学んだことを持って、社会人生活を過ごしていくと、もっと世界が広がって、もっと考え方が深まったりする。その後の人生はもっと面白い!そう実感して欲しくて、日々学生たちに心理学を教えています。

心理学を学ぶと、
知識や経験を積めば積むほど
社会がもっと面白いんだと
実感することができるはずです。

Humans3つのキーワード

  • 01山の風景

    学生時代は山登りサークルに入っていました。夏になると南アルプスや北アルプスに登るのですが、山の上で風に吹かれる瞬間がすごく気持ちよかったのが忘れられません。リーダーが下山しますよと言う時は、とても名残惜しく感じました。 当時は携帯電話がなかったので、何かあってもすぐに連絡できない環境で、家の人は心配していました。今はどこにいても連絡できますよね。携帯電話もSNSもなかった当時は、「別れ」や「距離」の感覚が今とは随分違っていたように思います。この感覚の違いは認知心理学の観点から見ても興味深いなと思います。

  • 02図書館

    図書館が好きです。インターネット検索では出会えないような偶然のおもしろい出会いがあるからです。未来大の図書館、静かで落ち着いていて、おすすめです。ふらっと立ち寄って、気になった本を開いて眺める時間は、リラックスの時間でもあります。

  • 03マグネット

    旅行が好きです。旅先でついつい買ってしまうのが、ご当地マグネット。どんどん増えてきて、ちょっとしたコレクションになっています。旅先のお土産っていろんなものがありますが、マグネットだとその時の思い出も残るし、ホワイトボードや冷蔵庫にくっつけて日常的に使える。かさばらないので持ち帰りも手軽だし、値段もリーズナブル。研究室でも愛用しています。

こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文

流行歌はどのように記憶に残るか-社会的出来事と関連づけて-/香水の匂いを伴う出来事の想起に関する研究/服装に対する自己表現と他者からのとらえ方-服装に関する想起経験の影響-/触感のやわらかい愛着のあるものに触れることによる心理的影響/信頼関係ができた友人とのエピソードが現在の自尊感情に及ぼす影響/イラスト描画時における好きなキャラクターに関する記憶の影響/過去の絵本体験が子育て観に与える影響-物語絵本タイプと図鑑絵本タイプの比較-/夢に関する記憶について-現実的な夢と非現実的な夢に関する検討-/過去に神秘的に感じた経験が「神秘減少」のとらえ方に与える影響/旅行体験が自己概念に及ぼす影響-幼少期と思春期以降との比較-

著書・論文

  • 子どもをまもる心理学

    [著書]編著/福村出版/2024

    「子どもをまもる」をテーマに、現代の子どもにまつわる諸問題を発達・臨床・社会・認知の心理学からとらえた書物。本学の心理専攻教員の皆で執筆した。14章「事故から子どもをまもる」を担当し、子ども自身と子どもをまもる大人の認知の働の面からヒューマン・エラーの問題も含めて紹介した。

  • カテゴリー化における類似性の役割に関する一考察

    [論文]単著/鎌倉女子大学紀要 第10号 125-131/2023

    カテゴリー化とは連続的な事物・事象をある側面から非連続的に区切ってまとめていく認知の働きの1つである。新しい事物が追加されたときはカテゴリー化の方法が変化することも多い。カテゴリー化について全体的な類似性の果たす役割について検討した。

  • お菓子の自伝的記憶における社会・文化的側面の検討

    [論文]単著/未来の保育と教育 ― 東京未来大学保育・教職センター紀要 ― 第3号 71- 78頁/2016

    お菓子に関する過去の記憶と現在のかかわりについて、なつかしさや食育の面から検討した。その上で、過去と現在を連続的につなぐものとして、あるいは過去を現在と切り離して非連続的にとらえるのかについて考察した。

研究者詳細

Humans