あたりまえって、なに?
正解がないからこそ、
先生になる前に考えてほしい。
あたりまえって、なに?
正解がないからこそ、
先生になる前に
考えてほしい。

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PROFILE

Yoko Koshikawa

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立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程単位取得退学。立教大学文学部教育学科助手、秋草学園短期大学地域保育学科 専任講師・准教授を経て2019年4月より東京未来大学こども心理学部講師。2024年4月より東京未来大学こども心理学部准教授。

専門:

教育社会学、教育学

主な担当科目:

教育学概論、保育・教職論、比較教育制度論など

  • 教育に興味を持ったきっかけ

    わたしの「あたりまえ」は、
    誰かにとっては「あたりまえ」じゃないかもしれない。

    教育に興味を持ったきっかけは、高校生の時に友人が中退したことにあります。私にとっては学校に行くことはあたりまえ。家に居るよりは、学校で友人と過ごすほうが楽しいと思っていたけど、友人にとってはそうではなかったかもしれない。教育を受ける場は学校だけではないのかもしれないということにも気付かされました。教育とは、学校とは何なのか。もっと知りたくなり、大学では文学部教育学科に進みました。興味を持って学んでいたのは、少年犯罪や少年非行、いわゆる「逸脱」と言われる事象です。学校のルール、社会のルールからはみ出してしまった子どもはどうなるのか?ちょうど神戸の連続児童殺傷事件が騒がれていた時期でした。事件の報道はエスカレートして、少年の家族までも晒し者にされ、バッシングされる様子は当時の私にはとてもショッキングな光景でした。

    「逸脱」に興味を持ったのは、自分自身の性格もあったと思います。というのは、学校生活でも単独行動しがちな子どもだったんです。中学くらいになるとグループができたりしますが、入っていなくても全然平気だった。同世代の友人が好きなものを、ことごとく好きにならない(笑)。たとえば人気キャラクターにも、アイドルにも、ファッション誌にもハマらなかった。私は私でいい、と割り切ってたんですかね。余談ですが、他人と同じ行動をするって、他人に共感する力が身についたりするので、社会生活ではメリットなんです。単純に人と同じ行動をすることでの楽しさもある。たとえば、アイドルにハマるにしても、みんなとおなじタイミングで、おなじものを見て、聞いて、おなじ感情を抱くという行為に参加しているんですよ。楽しいですよね?そんな楽しさがあるのに、私はそこに乗れなかったんですね。絵や写真、映像、漫画など人が作ったものを見て、あれこれ考えるのが好きな子どもでした。

  • 研究内容について

    社会が子どもの受け止め方を変えると、
    状況は改善されるかもしれない。

    私の専門は教育社会学なのですが、そもそも社会学とは、常識を疑うことをポリシーとしている学問なんですね。あたりまえを疑うことで、逆にいまの社会常識、社会規範がどう成り立っているのかが明らかになってくる。常識や規範があることで、生きづらさを感じている人、とらわれている人がいるとすれば、その常識や規範を少し解体して、組み替えてみたら、息苦しさから解放されるかもしれない、と。現状を現状のままにしておかないのです。少年犯罪やいじめの問題も、なぜその子が問題を起こしてしまったのか?という子どもの側の問題ではなく、子どもを受け止める社会の側を見る。社会が子どもをどう受け止め、どう反応するのか、と。そこに疑問を投げかけ、探求していくんです。そうすると、いまの社会が持っている子どもに対する見方、考え方が見えてきたりする。たとえば神戸の事件のような悲惨なできごとがあると、個人攻撃に走りますよね。犯人が子どもであれば家族にも厳しく責任追及する。この傾向が日本の社会は強いと思うんですけど、なぜこういう社会の反応が生じるのか?という疑問が心にあった。だから研究してみようと思ったのです。

    大学院でも引き続き子どもの問題について研究していたのですが、その後、教育学科の助手の仕事につくことになり、小学校の教員になる人のサポート業務を担当することになりました。いま未来大で、教育学概論や、保育・教職論、教育実習などの授業を担当しているのですが、実は助手時代のこの経験がきっかけなんです。助手の仕事の後は、短大で保育者の養成にも関わるようになりました。これまで教育を学んできたけれど、保育・福祉に関してはまったく知らなかったんですね。実際に学んでみて思ったことは、幼稚園・保育園と小学校の教育は、地続きであるはずなのに、なぜこんなに学生が学ぶ領域が違うのだろうかということでした。領域を横断する複合的な目線を持って幼児教育と小学校教育をつなぐようなことができたらよいな、と考えるように。どちらも見てきた人間だから、何か力になれるのではないかと思ったんです。たとえば、実際に未来大で福祉の先生と話したりすると「考えていることが近いな」と感じることもあるんです。学問としては別で、違うフィールドで研究しているのに、同じことを考えていたりする。ちなみに、教育社会学という専門はありますが、保育社会学という専門はないんですね。研究や指導を通じて、何かできることがありそうだと考えています。保育士、幼稚園教諭、小学校教諭を目指す学生たちとのふれあいを通して、自分の経験では得られなかったものをたくさん知ることができました。私の研究スタイルは統計などを用いる「量的調査」ではなく、実際に現場に入って、当事者にインタビューして、フィールドワークで探っていく「質的調査」という手法をとっているので、学生たちにもついついインタビューしてしまいます。研究する上でも貴重な時間。とてもありがたいなと思っています。

  • 学生のみなさんに伝えたいこと

    教育者・保育者にのしかかる責任に
    とらわれすぎないように、学んで欲しい。

    私の研究は、今すぐダイレクトに役立つものではありません。保育・教育が置かれている今の社会状況や社会制度のあり方や、教育現場で起きている事象を社会がどう捉えているのか、ということを探っていく研究なので、便利なHOW TOが手に入るわけではないんです。でも、社会が教育現場を見る目を知っておいてほしいし、理解した上で子どもたちに向き合ってほしいと思います。なぜなら、予期せぬことにぶつかった時に、自分で考え解決するための方法を手に入れることができると思うからです。たとえば、教室でじっとしていられない子どもがいたとします。今だと障害が疑われる場合がありますが、そこで終わらない。終わらせない。「関わり方変えたら、問題の見え方が変わるのでは?」と考えることができる。そもそも、学校とは決められた時間に決められたことを学ぶ場所として制度化されてきた歴史があります。だから、子どもが授業でじっとしていられないという問題が顕在化した。「だったらクラスという枠組みを取っ払ってしまうのはどう?」「他学年とまざって子どもが学ぶように環境を変えるのはどう?」などと、次の解決策を考えることができる。現状を放置しない。変えられる余地があるんじゃないかと考えることができるのです。

    先生になるということは、先生という名の役割を背負うことでもあります。役割を背負ったら、社会から期待される責任が、個人に重くのしかかります。その重みに潰されそうになることもあると思う。でも、潰れないためにどうするか。それを4年間で学んでほしいと思います。今の学生は私たちが伝えなくても、先生が背負う責任の重みをよくわかっているように思います。保育や教育に関するメディア報道の影響の大きさを感じます。でもそれが、学生にとって過剰な負担になっているような気がする。リスクにとらわれすぎて縮こまっていないかと。社会が求める教師の責任を背負うことと、子どものために、日々、考え行動することは、切り分けて考えられるようになってほしい。現場に出ると本当にいろんなことが起こります。子どもは言うことを聞いてくれないものですし、こっちが思っているように動いてくれない。でもそこからが、先生の腕の見せ所。今、この状況をどうするか。何ができるか。先生という仕事を選んだあなたのために、私から教えられることはすべて教えたいと思っています。

子どもを受け止める社会に、
疑問を投げかけ、探求する。
きっと先生になってから、
役立つツールになるはずです。

Humans3つのキーワード

  • 01

    猫が好きです。自由気ままに生きているところが好き。歩み寄っても懐いてくれず、逃げていくところも含めて好き(笑)。昔は実家で飼っていたのですが、いまは近所の地域猫がいるので、その子を愛でることで猫欲を満たしています。未来大には猫好きの先生が多いところも、小さなアピールポイントです。

  • 02散歩

    散歩が好きです。近所をぐるぐる歩くだけなのですが、世の中ウォッチングができるところが面白い。「革靴やヒールの人が減ってスニーカーの人だらけになったな」などと、歩くだけで世の中の変化も感じることができる。雑誌のトレンド特集としてまとめられたものから情報収集するのではなく、自分の目で見て感じて、自分なりにあれこれ考えることが好きです。

  • 03あじわい

    一つのものを長く使うタイプです。革のパスケースは、20代からずっと使っているもの。長く使えば、味が出る。愛着も湧く。味といえば、食べ物の味の違いを知ることも好きですね。たとえば塩辛。おなじ塩辛でも、物によって全然違うじゃないですか。幅があるので分析のしがいがある。モンブランもそうですね。渋皮入りの茶色のモンブランもあれば、甘露煮を使った黄色のものもある。何がどう違うのか、違いがわかるとさらに美味しく味わうことができる気がします。

こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文

公園から遊具が減少していく問題―子どもの発達のために残しておくべき遊具の調査/「社会的弱者」に対する支援のあり方とは―支援者との関わりに着目して/「発達障害がある」という事が与える将来への影響についてー障害について書かれた手記分析を通して/子どもの意欲を引き出す働きかけとはー実践記録による事例分析を通して/保育における英語活動の意味-乳幼児期の異文化理解について/小学校教員志望学生の教師観ー二つの将来像の間の揺らぎの経験から/教師の日常的な発話が児童に与える影響ー教師の視点に着目して/学校教育におけるプログラミング教育の現状ーLEGOを使った問題解決型学習の有用性 /中学生の不登校の原因と支援方法について/フィクション作品における「いじめ」の描かれ方とその考察ー物語上の位置付けと登場人物の心情から

著書・論文

  • 北澤毅・間山広朗編,『囚われのいじめ問題』 「第6章『いじめの加害者になる』という経験―元生徒と保護者の語り」,pp.179-207.

    [著書]共著/岩波書店/2021

    2012年に社会問題化したいじめ事件に関する共同研究の成果をまとめた編著の1章と6章を担当。6章は、いじめ事件の加害者とされる元生徒や保護者の経験をインタビュー調査から明らかにしている。

  • 学生は実習日誌に何を書いているのか―保育者養成校における実習日誌の指導を通して

    [論文]単著/『季刊保育問題研究』291 ,pp.76-89./2018

    学生が実習日誌の作成で直面する課題を、記録の「対象化の問題」と「形式の問題」に分けて考察。実習日誌の指導では、学生が保育現場で出会った出来事の「記述の仕方」に焦点化した指導の必要性を論じている。

  • 「いじめ問題」にみる生徒間トラブルと学校の対応ー教師が語るローカル・リアリティに着目して

    [論文]単著/『教育社会学研究』第101集,pp.5-25./2017

    学校で生じた重大な生徒間トラブルが、「いじめ」事件として報じられた学校の教員1名にインタビュー調査を行い、生徒間トラブルに関する学校現場の認識と対応を検討している。

研究者詳細

Humans