子どもだから
できることがある。
言葉や理屈を超えた
音楽の世界があります。
PROFILE
竹内 貞一Teiichi Takeuchi
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東京学芸大学教育学部特別教科教員養成課程音楽専攻卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科音楽科教育講座修了(修士課程)、早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了。専門は音楽教育、音楽心理学、芸術療法。臨床心理士として、スクールカウンセラーや教育相談、小児医療における心理療法・査定に従事する。平成音楽大学専任講師、熊本大学・東京学芸大学非常勤講師等を経て東京未来大学こども心理学部講師(2007-)、准教授(2011-)、教授(2014-現在)。
専門:
音楽教育、音楽心理学、芸術療法
主な担当科目:
子ども音楽、音楽表現指導法、初等音楽科教育法
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音楽に興味を持ったきっかけは?
音楽って何のためにあるの?
大学時代、葛藤の中で考えた。幼い頃、よく両親がオーケストラの演奏会に連れていってくれました。かっこいいなと思ったのはフルート。出番が多いし、横に構える姿が目立ってたんですよね。親に頼んで習い始めたのが小学4年生のときのこと。自分のことは何でも自分で決めたい。ちょっと変わった子どもだったと思います。中学の時は外国語に興味があり独学でドイツ語を勉強したりしていました。単純に、外交官とか面白そうだなと。高校に入ると本格的な進路選択が迫ってきますよね。真面目に考えはじめるんですけど、答えが出ないんですよ。当時はプラトンとか哲学の本ばかり読んでいました。そして、ふと思うんです。自分は言語に興味を持っているけど、言葉で伝えることの限界ってあるんじゃないかなと。まだ言葉だって十分に使いこなせていないくせにね(笑)。そこで、言葉以外のコミュニケーションに着目した。小さい頃からやってきた「音楽」もそうじゃないかと。先生の助言も得て、僕はフルートを専門的に学びつつ、音楽教育を学ぶ道を選ぶことにしました。
ところが、入学するとイメージしていた大学とのギャップに唖然とします。「誰が上手い」とか、「コンクール何位だった」というような競争主義的な空気に違和感を感じるようになってしまった。もちろん音楽にも技巧という要素はありますし、否定するわけではありません。しかし、音楽の捉え方は多様であっていいはずなのに、なぜみんな似たり寄ったりになってしまうのだろうと。音楽って、勝ち負けのものだっけ?負けた人は価値がないの?この価値観の先に自分の幸せがあるのか?2週間くらい大学に行かずに、河原でぼんやり考えました。当時の指導教官から指摘されたことも頭をよぎりました。指導の中で「あなたはなぜできるように取り繕うのか」と言われたんです。できない自分を素直に受け入れなさいと。できないから学ぶのでしょう。学ぶ意味がある。だから成長できる。今思えば、自分の弱さや至らなさと向き合うのが怖かったのかもしれません。先生の言葉は、前に進むきっかけになりました。自分に素直になって、自分は自分の考える観点から音楽を探究していこうと。その後、音楽療法に興味をもち、音楽を発信する側だけでなく、受け取る側のことも探究してみたいと思うようになり、心理学に出会うことになります。 -
研究内容とは?
ポクポクという木琴の音色。シンバルの振動。
音楽は子どもの心にどのような影響を及ぼすのか?音楽教育にはじまり、音楽心理学、芸術療法をテーマとして研究を続けてきました。大きな転換点となったのが「ノードフ・ロビンズ音楽療法」との出会いです。障がいの有無にかかわらず誰もが音楽性を持っているという考え方のもと、セラピストが即興演奏を用いて子どもの創造性に働きかけていく手法。大学院時代、研究会で触れた事例研究はよく覚えています。たとえば、金属音を聞くとパニックになってしまう自閉性スペクトラム障害の子ども。セラピストがポクポクという木琴を鳴らして近づくと興味を示して表情がパッと変わる。また別の子どもは自分がイライラしている時は、引っ叩くように激しく太鼓を叩いて感情を表現する。言葉を介さず、音と音でコミュニケーションが成立しているんです。最初にこの場面を見た時、衝撃が走りました。上手いか下手かという技巧の音楽ではない。心のありのままを表現する音楽がそこにある。これこそが私が求めていたものだと感銘を覚えました。その後、大学院で心理学も学び、子ども臨床の現場に出て行くことになりました。
音楽が心の中に入ってきて、「何かしら」の変化が起きる。みなさんも実感があるのではないでしょうか。たとえば、気分の落ち込んでいる時に、頑張れと言われても気が乗らないように、落ち込んでいる時に、無理に明るい曲を聴かせてもいきなり明るい気持ちにはならない。最初は気持ちに寄り添うような泣ける曲から、次は慰めてくれる曲、少し明るい曲、最後は元気な曲というように、少しずつ切り替えていくと、曲調に合わせて元気になっていくという傾向があるんです。同時に「自分に関する形容語」を書いてもらう実験をすると、興味深い結果がでます。憂うつな気分になりやすい人は最初は「敗者」といったネガティブなワードを思いつきやすいのですが、音楽で気分を切り替えていくと「左利きの」といった、ポジティブでもネガティブでもない中立的なワードも出てくる。さすがに一度の実験でポジティブなワードが出てくるまでには至りませんでしたが、音楽によって心の持ち方が変わってくるということが分かります。 -
教育ポリシーについて
あなたの学びは、将来あなたが出会うことになる
子どもたちに対して、誠実ですか?2007年の東京未来大学の開学当初から「子ども音楽」などの授業を通じて、将来保育士や幼稚園教諭・小学校教諭を目指す学生たちを教えています。私の授業は厳しいですよ。だって考えてみてください。ここで学んだ学生たちは卒業したら、子どもたちの前に立つ「先生」になる。学生一人ひとりの先には、無数の子どもたちがいるわけです。磨き上げた姿で、先生として堂々と立ってほしい。もちろん、頑張るか頑張らないかは、本人の自由です。ただ、将来のあなたの目の前には、子どもたちがいることを忘れてほしくないんだと。だから私が提示する物差しはひとつだけです。「あなたの学びは、将来出会うことになる子どもたちに対して、誠実か?」ということ。いま、ピアノが下手でもいいんです。確かに上手に弾けるにこしたことはありませんが、演奏の上手い・下手よりも大事なことがあるはずです。たとえば、失敗したとしても何度もチャレンジする一生懸命な姿のほうがずっとずっと子どもたちに伝わるのではないかと私は思います。
どんな先生になりたいかとたずねると多くの学生が「子どもの心が理解できる先生になりたい」と答えます。でも、「それは具体的にどんな先生なの?」とたずねても答えられる学生は多くありません。「心理学を勉強すればなれると思います」と言う学生もいる。本当にそうでしょうか?臨床心理の用語で「インナーチャイルド」という言葉があります。「自分の内なる子どもの部分」という意味で、私の授業でもよく登場します。「あなたの中のインナーチャイルドが、目の前の子どもと同じように喜べた時が、本当の共感なんだよ」と教えています。これって、簡単そうですが、なかなか難しい。たとえば、「駅から大学までの間にどれくらい花が咲いていた?」と学生に聞くと、ほとんどが見ていない。子どもはお散歩の時に見てるんです。みんな大人になると効率優先になって、心のみずみずしさを失ってしまう。「子どもの心理を勉強する」というのは、自分の中のインナーチャイルドを思い出すことなんです。また、人前で歌ったり踊ったりするのを恥ずかしがる学生もいます。羞恥心が捨てきれないんですね。「子どもの心で」としつこく伝えたり、何度も繰り返し実践したりしていくと、羞恥心がポーンと外れる瞬間があるんです。インナーチャイルドの存在を実感できると、その学生の音楽活動の記録やコメントが、どんどん良くなっていく。そうやって初めて、たくさん吸収できるようになるんです。学生が成長する瞬間です。私は「学生を育てる大学」「教育中心の大学」という考え方に共感してこの大学にやってきました。2007年の開学時から教えていますが、学生の成長以上に嬉しいことはありません。学生には「なぜ学ぶのか?」と自分自身で捉え直してほしい。表面的な知識やスキルのインプットじゃない。本質的な学びがある大学。学生を育てる環境のある大学。だから私は今日もこの大学で教壇に立っています。
今日の通学路には
どんな花が咲いていましたか。
どんなことに心を動かしましたか。
心の中の「子ども」に聞いてみる。
それが「子どもの心理を勉強する」
ということです。
3つのキーワード
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0140年間フルーティスト
小学4年生の時に始めたフルートももう40年近くになります。最近はなかなか時間がとれずリハビリが必要な状態ですが(笑)。一人で吹くよりも、アンサンブルやオーケストラの中で演奏することが好きです。学生時代には、多くのステージに立って演奏していました。
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02スキューバダイビング
趣味はスキューバダイビング。海に潜った時の気持ちのいい浮遊感はたまらないですね。お気に入りスポットは宮古島。美しい自然に触れると、この景観を後世まで守っていきたいという意識も芽生えてきます。
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03ご長寿ゼミ
東京未来大学の開学からあるゼミなので、卒業生・現役を合わせると100名近い人数になります。縦の繋がりを作るためにも、歴代ゼミ生がつながるSNSや交流会を開催。結婚や出産の報告をしたり、先輩が後輩の活動にエールを送ったり。年月が経っても活気のあるゼミの雰囲気は変わりません。私にとって財産だと思っています。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
雑音環境下での作業効率の研究—マスキングによる音環境のコントロール— / 声の質が人物の印象に与える影響 / 向性と恋愛状況の要因が音楽の好みに及ぼす影響 / 歌詞の提示方法による音楽気分誘導効果の比較 / 音楽による表現意欲の賦活化に関する研究ー 受容されること・表現できること ー / 家族で行う表現アート活動ー表現を通してお互いの個性を認め合うことー / ジブリ映画の分析心理学的検討ー象徴的表現による共感性ー / 子どもの絵から読み取る心理的研究~描画療法を通じた内面理解~ / ユングのタイプ論と表現方法〜自己開示と性格の関係〜
著書・論文
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保育者養成のための音楽表現—模擬実践をとおして学ぶ—
[著書]編著/大学図書出版/2020
保育者として、子ども達と共に音楽のある時間をつくることができるようになるために、理論と実践を対象しながら、模擬実践をとおして学ぶ構成とした。保育者養成のみならず、現場でも役立ててもらいたい教科書。
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新 音楽の授業づくり
[著書]共著/教育芸術社/2009
小学校の音楽科授業の構成方法について、主に小学校教員養成課程、小学校教諭免許課程での使用を想定して書かれた教科書。その中で、発達段階に即した指導のため、子どもの発達や心理と音・音楽の関係について論じた。
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心理学 I ・その理論と方法—自分を知り他者を知るために—
[著書]共著/川島書店/2011
心理学について概説的にまとめられた本。その中で、第13章「心の治療」を担当。心理療法で用いられる様々な技法とその理論的背景、および技法について解説した。その中で、芸術療法の様々な技法についても紹介している。