世界中の
多様な価値観には、
日本の可能性の
扉を開くカギがある。
PROFILE
郭 潔蓉Iyo Kaku
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台湾生まれ。外資系コンサルティング企業での勤務後、ボストン大学大学院(国際関係学専攻)修士課程修了、筑波大学大学院(社会科学研究科)修士課程・博士課程修了。一貫して国際政治経済を研究する。その後ビジネス・ブレイクスルー大学、大東文化大学を経て、2012年より東京未来大学へ。2013年から現在までモチベーション行動科学部に所属。
専門:
東・東南アジア政治経済、多文化社会、ダイバーシティ・マネジメント
主な担当科目:
国際経営、国際経済、企業の社会的責任、多文化社会論
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研究内容に興味を持ったきっかけは?
台湾生まれ、日本育ち。
自分の生い立ちが、研究につながった。私の両親は台湾人です。最初に日本に来たのは、父の留学についてきた1歳の時。父の卒業と同時に台湾に帰りましたが、父が台湾外務省に勤めたため、小学2年生から4年生の間も再び日本へ。その後シンガポールをはさんで、小学6年生の時からまた日本へ。私の幼少期・思春期は日本で過ごした時間が一番長いんです。大学卒業後は外資系のコンサルティング会社に就職しました。その頃、中国の深センに経済特区が立ち上がったこともあり、会社では中国への日本企業誘致の担当に。こんな名前ですので「郭がいいんじゃないか」と声がかかったんですね。ところが、これがなかなか難しかった。現地のビジネスパートナーとは同じ中国語を話しているのに、仕事の進め方や文化、価値観の違いに戸惑うことが多かった。私には勉強が足りないと痛感した出来事でもありました。それで、もう一度学び直そうと大学院に行くことにしたんです。
留学先のボストン大学では、中国内政の研究をされているジョセフ・フュースミス先生のもとで学びました。世界の大国であるアメリカが台湾をどう見ているのか知りたかったのです。背景には、小さな島国がこの先どうなるのかという不安も含めて、自分のルーツである台湾への思いがありました。台湾の歴史、62年間の日本統治時代のこと、中国との関係性。そこから、東・東南アジアへと興味が広がりました。研究者になりたいという高い志があったわけではなく、個人的な興味が最初のきっかけです。大学で教えることになったきっかけも、コンサルティング会社に勤務していた時の上司である大前研一さんが、社会人向けの大学院を作ったと声をかけていただいたことでした。MBA取得を目指す方向けに、マクロデータを使った情報分析の方法、東・東南アジアの政治経済の講義を担当。国際事情というものは経営環境に大きく影響するのでMBA取得にあたっては必要な知識なんですね。100%オンライン講義で、子育て中の私でもチャレンジしやすかったということもあります。その後、大東文化大学を経て東京未来大学へやってきました。 -
研究内容とは?
多様性を優位に活用する。
これからの企業のチャンスの芽になるかもしれない。東・東南アジアの政治経済、多文化社会、ダイバーシティマネジメントを研究テーマとしています。たとえば、外国人を雇用している企業は文化や言葉の壁をこえてどのように従業員をマネジメントしているのか、海外進出した日本企業は、日本人数名で200〜300名の現地スタッフをマネジメントしたりするわけですが、どのように組織を構築しているのか。最近では「多様性を優位に活用する」ということに力点を置いて研究しています。成功事例を収集して、方法論を見出したいと調査を続けているところです。外国人を雇用する場合、ビザや言語の問題があり、面倒だというイメージを持たれることも多い。しかし、グローバル化が進んで、顧客も多様化している。世の中のダイバーシティの考え方も進化してきている。これからの時代は「多様性を優位に活用」できる組織でないと勝てなくなるのではないかと考えるようになりました。逆に言えば、これからの企業の新しいチャンスの芽にもなりうると思うんです。
多様性というものをポジティブに捉えるきっかけになったエピソードがあります。10年ほど前にある研究者の方から「あなたみたいな人って根無し草っぽいじゃないですか。いろんな国を渡り歩いている人ってどこにアイデンティティを見出すんですか?」と質問されたことがあるんです。答えに窮してしまった。確かに台湾人っぽいかといわれると違うし、日本人っぽいかといったらまた違う。「それはアイデンティティ・クライシス(自分らしさの喪失)なのでは?」と言われたんです。すると隣にいらっしゃった先生が「郭先生、そういう時は、私はコスモポリタン(地球市民)ですって言えばいいんだよ」とフォローしてくださった。今振り返ると、その一言が価値観を変えてくれたなと思うんです。それまでは自分は何人なのだろうと立ち止まることが多かったんですね。すっと腹落ちした瞬間でもありました。その発想の転換は自分の研究スタンスにもつながりました。それまでは社会的な問題点に注視することが多かったのですが、逆に優位点を見出すのも面白いと思うように。問題点を見つけて批判するのは比較的やりやすいのですが、伸びしろが少なかったりする。何か一つ良い点を見つけて好転させると全体として好循環につながることが多いんですよね。これは教育にも通じる考え方だと思います。私個人も悲観的に生きるより楽観的に生きる方が合っている人間なので、ストレスなく頑張れるなと。アイデンティティ・クライシスだと気にするのではなく、コスモポリタンとして堂々と生きる。フォローしてくださった先生はもうお忘れかもしれませんが、新たな価値観を与えていただいたことを私は今でも感謝しています。 -
教育ポリシーについて
カンボジアで水上生活者に取材する。
タイの孤児院で子どもたちと遊ぶ。世界を知る。貴重な大学生活ですから、学生たちには濃い4年間を過ごしてほしい。自分なりに興味関心を持ち、意見を持てるようになってほしい。そのためには、知識のインプットも大事ですが、自分で感じて考える「きっかけ」が大事だと思っています。学生が何かに興味を持った時、どんなボールを投げると、興味がもっと膨らむのか。特に国際政治経済は幅が広い学問です。ただただ広く勉強しているだけだと知識にしかなりません。たとえば、フレームワークを使うと、もう一歩踏み込んで考えることができます。よく使っているのは、P= Politics(政治)、E= Economy(経済)、S=Society(社会)、
T=Technology(技術)の4つの視点から、企業を取り巻く環境を整理し、未来予測につなげるPEST分析。ゼミ生たちは就活の時にも役立ったとよく話してくれます。暗記して終わりではなく、実際に使うと身になっていくんだと実感します。
ゼミの希望者で企画する、東南アジア地域への研修旅行も人気です。学生たちに行きたい東南アジアの場所とテーマをプレゼンしてもらい、もっとも説得力のあった人のプランを採用する。「国境を越えたことがないから国境を越えたい」という学生のプレゼンが採用された年はマレーシアから入って歩いてシンガポールとの国境を渡りました。カンボジアで水上生活をしている人に話を聞いたり、タイの孤児院に行って子どもたちと遊んだこともありました。「発展途上国の貧困層の人々がなぜ貧困から抜け出せないのか知りたい」というテーマの年は、カンボジアに行き、プノンペンからシェムリアップという遺跡があるところまで6時間かけてバスで旅をしました。大きなゴミ捨て場で暮らしている人たちにインタビューしたのですが、女子学生が通訳さんを通じて冷静に取材する後ろで、男子学生がたまらず泣いていました。その日の夕食の時に「俺は人生やり直す!」と宣言している様子を見て、研修旅行の意義を改めて実感しました。私も研究で海外を訪れることが多いのですが、アジアの若者の勢いを感じるたびに未来大の学生たちのことを考えます。負けないように、頑張ってほしいと。コンサル時代の私が自分の無力さを痛感したことも思い出します。私にできる最大限のことを、学生たちには教えていきたい。これからも学生たちと一緒に頑張っていきたいと思います。
違いや多様性を
プラスにとらえることが、
新しいチャンスの芽になる。
人も企業も同じかもしれません。
自分のことも、世界のことも、
ポジティブ発想で見つめてみよう。
3つのキーワード
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01パラグライダー
趣味は多いほうかもしれません。一番続いたスポーツは、パラグライダーです。小柄な体型が物理的にパラグライダーにちょうどいいのか、よく飛ぶんです。崖から飛び降りて蛇行しながらターゲットを目指すというのが20代の頃はすっごく楽しくて。実はA級ライセンスも持っています。風に飛ばされてリフトに引っかかったこともあるというと、みんな嫌な顔をしますけど、本当に楽しいですよ。
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02メコン川を泳いで渡りたい!?
よくラオスやタイに行って取材するんですが、メコン川という川が流れているんですね。それが道路かと思っちゃうくらい黄土色なんです。あらゆる生活用水に使われていて、現地の方は平気なんですけど、どんな環境でも抵抗を感じない私でも流石にメコン川は…。もしボートから落ちても顔を水につけなくていいよう、水面から顔を出して平泳ぎができるようになるのが今の夢です。
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03コタロウ
パピヨンのコタロウは我が家の愛犬です。息子がいるので、その弟分だから「コタロウ」。親バカじゃないですけど、とってもかわいいんですよ。色んな人から好かれる人気者です。スマホの待ち受けにして、海外出張の時の心の拠り所にしています。
こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文
パンデミックが音楽事業に与える影響-コロナ禍におけるアーティストたちの活動事例を通して- / 女性の活躍を促進する社会-日本の課題と女性の意識変化- / 日本における少子高齢化の課題とその展望 / 音楽活動におけるクラウド・ファンディングの効果 / 外国人労働者の労働課題と働きやすい環境について-サービス業界に従事する外国人労働者への調査を通して- / 国際結婚の増加と日本社会に潜む問題 / リゾート事業の改革から地域活性化を考える~野沢温泉村の課題と可能性~ / 環太平洋戦略的経済連携協定から見る日本農業への期待と課題 / PEST分析でみる紳士服業界の動向 / 通信販売を主体とする化粧品業界の戦略と今後の展望
著書・論文
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新しい多文化社会論 : インタラクティブゼミナール : 共に拓く共創・協働の時代
[著書]共著/東海大学出版部/2020
第9章「外国人人材の獲得とダイバーシティ・マネジメント」を担当した。日本企業の海外進出と外国人雇用の実態を明らかにし、多様性の優位性を活かせるダイバーシティマネジメントとは何かを考察・分析した。
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多文化社会を拓く
[著書]共著/ムイスリ出版/2019
多文化共創社会を目指して、日本の多文化化の課題と展望を調査・分析した。第1章「多文化社会を探る」、第2章「日本における多文化社会の形成」、第5章「外国人集住地区の多文化共生政策」、第8章「高度人材の獲得」を担当。
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多様性を活かす組織 -多文化共創を実践する企業の取り組みから-
[論文]単著/『国際人流』公益財団法人入管協会/2017
不動産賃貸業界における外国人人材の活用の実態調査(インタビュー調査)を実施し、多様性を活かした取り組みやあり方を調査・分析した。実際に同業界に従事している外国人従業員からも聞き取り調査を行った。