犯罪者より怖いのは、
僕たちの心の中にある、
偏見や誤解だと思う。

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PROFILE

Yasuyuki Deguchi

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東京学芸大学大学院修了後、法務省に心理職として入省。全国の少年鑑別所や刑務所で1万人の犯罪者を心理分析。法務省矯正局、法務省法務大臣官房秘書課勤務などを経て、2007年法務省法務総合研究所室長研究官を最後に退官し、同時に東京未来大学教授に。2013年からは、こども心理学部長を務める。警視庁有識者委員、足立区防犯アドバイザーも務める。

専門:

犯罪心理学

主な担当科目:

少年非行の心理学、司法・犯罪心理学、非行犯罪特別講義

  • 心理学に興味を持ったきっかけは?

    自分自身の苦労から、
    青年の進路・職業選択に興味を持つ。

    最初は心理学というより、青年の進路・職業選択に興味があったんです。というのも、自分自身がとても苦労したんですよ。特殊な高校に通っていて、外語短大の附属高校で3年間ずっと英語・フランス語・スペイン語の語学漬け。しかし小学校の教員になりたくて、親父と同じ東京学芸大学を受験するんですが、受かるわけないんですよ。語学以外はサッパリなので。浪人して予備校に行くものの予備校も意味がないとすぐ気づいた。だって因数分解の意味すら知らないんですから。自分で教科書買いにいって一からやるしかないと勉強しました。

    一浪して大学へ。大学4年間は、職業指導を学んだんですが、勉強そっちのけでバスケ三昧。教員採用試験も受けるんですけど、このまま先生になっていいのかという迷いが生じまして、大学院進学を選択します。するとあっさり落ちまして(笑)。一浪して大学院に合格にできて、心理学を研究していました。今度こそ教員になるぞと、また教員採用試験を受けるわけですが、恩師が「国家公務員も受けてみろ」と言うんですね。そういう選択肢もあるのかと受けてみたところ、なんと合格。思いがけない展開ですよ。でも不思議ですよね、無知なのに飛び込んじゃうんですから。1985年、心理職の国家公務員として法務省に入省しました。最初の配属は少年鑑別所。非行少年を約4週間収容するところで、なぜその子が犯罪をおかしたのか心理分析する。ここで初めて犯罪心理学を実務の中で身につけることになります。

  • 研究ポリシーは?

    偏見や誤解をいかになくすか。
    フラットに事実を見つめるか。

    日本で最も刑の重い受刑者が収容されている宮城刑務所。異動になった時、正直怖いなと思いました。でも、実際に彼らと話して気づくんですよ。殺人犯はずっと人を殺そうとしているわけではない。普段の彼らは穏やかだったり、話せば普通の良いやつだったりする。犯罪とは「行動」であって、性格や人間性の話ではないんです。心理職であるにもかかわらず、彼らに会う前に「怖い」と感じたということは、自分の中に偏見があったということ。これは大反省しました。それ以来、どんな犯罪でも、フラットな目線で見ることを意識しています。うがった見方をしない。良し悪しの判断をつけない。なぜその行動が起きてしまったのか。一つひとつの行動をしっかり見る。

    たとえば、万引き。家にいて万引きしようと思いついても、立ち上がって、ドアノブに手をかけて…。実際に万引きするまでに、何度も意思決定と行動化のプロセスを経て「YES」を繰り返さないと、犯罪行為に辿り着かないですよね。途中で「あ、俺はなんてバカなことしようとしてたんだ!」と気づいてやめるきっかけは山ほどあったのに、なぜやめなかったのかと。そこに何があったのかを探るのが大事。実際、自分の犯罪を説明できる人は多くない。興奮状態なので覚えてないことも多い。面接官が仮説を提示して選択肢を与えると、相手は「それです」と言ってくれる。その選択肢をどう出せるか。もちろん、分析して終わりではありません。犯罪心理学のゴールは、犯罪者を更生させることですから。分析が正しければ、更生させる手段が明確になる。見方を変えれば犯罪心理学は「失敗経験を後に活かす」学問なんです。私の授業では毎回レポートを書かせます。例えば「なぜその窃盗をしたのか説明せよ」。力をつけた学生のレポートには、真剣かつ的確な答えがビシっと書かれています。犯罪心理学なんてマニアックな学問、なぜ学ぶのか不思議に思う人もいると思いますが、私が求めるのは知識のインプットじゃない。失敗経験を後に活かす力、これを身につけてほしい。だって、失敗しない人間なんて存在しませんから。

  • 現在の研究内容は?

    犯罪心理学は、失敗を未来につなげる学問。

    研究テーマとしては防犯、コンセプトとしては「攻める防犯」を掲げています。足立区の防犯アドバイザーとして犯罪抑止に関わっていますが、これまでの防犯は監視カメラを設置するなど犯罪から身を守ることを目的にしていました。攻める防犯は、積極的に働きかけて犯罪機会そのものを減らす取り組み。例えば、あいさつ運動や景観美化。極端に言えば「犯罪者に嫌がらせ」をするんです。世の中で一番多い犯罪は窃盗なのですが、85%の人は「なんらかの理由で実行せずに帰ってくる」というデータがあるんですよ。通りすがりのおばちゃんのあいさつでも、犯罪抑止になったりする。この対策は、費用もかかりません。また、犯罪者はきれいな場所が大嫌い。痕跡が目立つからなんですね。足立区では「ビューティフル・ウィンドウズ運動」として環境美化の取り組みも推進しています。かつては犯罪が多い街だと言われていた足立区も、ワースト1を脱却。北千住は住みたい街ランキングの常連にもなるなど、手応えのある成果が出ています。

    今はこうして自由にやらせてもらっていますが、法務省を辞めて、この大学に来た時は、実はとても不安でした。何を研究して、何を教えるのか。自分で一から考えて行動する。規律とルールが厳格だったそれまでの職場と違いすぎて困惑したんです。救いだったのは、一生懸命な学生たちの存在。濃密な人間関係。一期生がいなかったら私はいなかったと思います。卒業式は号泣しました。いや、前日から泣きました。卒業式の指示出ししている時に「こいつら明後日からいねえんだな」って思ったらボロボロ涙が止まらなかった。育てたというより育ててもらったと思います。先生を目指したけど先生にならずに法務省に行った。でもまた「先生」に戻ってきたんだな。やっと辿りついたんだな。先生になれて本当によかったと思います。

僕も間違う。失敗もする。
大事なのは、そこからどうするか。
だから人生、面白いんでしょ。

Humans3つのキーワード

  • 01法務大臣官房秘書課 国際室 勤務

    少年鑑別所や刑務所等で勤務した後に、法務大臣官房秘書課国際室で勤務していました。諸外国と締結するありとあらゆる条約の国内法の担保を考える仕事です。英語、フランス語、スペイン語の3ヶ国語を話せることが、まさかこんなところで役立つとは思わず。語学偏重の高校時代のせいで苦労したので、それまでは恨みでしかなかったのですが…人生どこで何が活きるかわかりません。

    (写真出典:法務省ウェブサイト

  • 02バラエティ100本、報道200本

    最初のTV出演のきっかけはバラエティ番組の性格分析のコーナー。いつの間にかどんどん増えました。バラエティ番組によく出てますねと言われがちなんですが、実は報道の方が多い。スケジュール管理も連絡もすべて自分でこなしています。特殊な事件が起こったら電話が鳴ります。深夜でも、早朝でも。法務大臣秘書課国際室時代には欧米諸国と深夜逆転でやりとりしていた時期もあるのでタフな仕事は慣れています。

  • 03三遊亭小遊三

    叔父は落語家の三遊亭小遊三。人から見ると顔も喋り方もたぶん似てるんですよ。芸能界という特殊な世界は、生き残るだけでも大変な世界。本当に尊敬しています。私も芸能人・有名人に会う機会が多いですが、長く活躍する人は何かしらの特殊な才能や秀でたものがあることにも気づきます。心理学の観点からもとても興味深いです。

こんなこと学べます、
ゼミ生たちの卒業論文

大学生における共依存傾向とドメスティックバイオレンスとの関連についての研究 / 青少年の問題行動と両親の養育態度に関する研究 / 青年期の心理的居場所とアパシー傾向に関する研究 / 家族の関係性と子どもの自己肯定感に関する研究 / 万引きなどの窃盗犯罪についての青少年の行動様式と規範意識の関係 / 青年期における愛着スタイルと心理的自立の関連 / 大学生の性に関する認識について / いじめ場面における役割取得と同調の関連 / 大学生の自己愛傾向と関係性攻撃との関係 / 大学生における防衛的悲観主義と楽観主義のストレスコーピングについて

など

著書・論文

  • 子育て×防犯~子どもが安全・安心に暮らせる社会
    ~(マッセ大阪研究紀要第23巻)

    [論文]共著/公益財団法人 大阪府市町村振興協会 おおさか市町村職員研修センター/2020

    従来型の守る防犯ではなく、さらに積極的な防犯理論である「攻める防犯」について論述した。本理論は内閣府や都道府県の講演内でも紹介しており、全国的な展開を行っている理論である。

  • 非行と犯罪(クローズアップ「学校」第13章)

    [著書]共著/福村出版/2015

    学校における非行・犯罪への対応についての特殊性について論じるとともに、少年非行の量的動向、質的変化にも言及し、学校における今後の対応方法・対処方法について論じている。

  • 攻める防犯 青少年にとって安心・安全な地域づくり(青少年育成支援読本)

    [著書]共著/内閣府/2018

    防犯環境設計の理論を援用し、どうして「攻める防犯」が有効であるのかを説明するとともに、各地域で攻める防犯を実行する上で必要な対策を提示するとともに、今後の攻める防犯のあり方を提示した。

  • 恋ってなに?(こどもの絵本シリーズ第2回)

    [監修書]監修/汐文社/2015

    発達段階に従った「恋」のとらえ方を子どもにわかりやすく説明する絵本。単純にセンセーション・シーキングに基づいて相手を思う気持ちのみではなく、お互いに受け入れあうことの重要性を説いている。

研究者詳細

Humans